「俺は自由参加じゃない」
――「沈没家族」には、もうひとり、重要な人物がいますよね。土さんの父親である山くん……私が山くんって読んでいいのかわからないですけど。
加納 いやいや、みんなの山くんです。
――山くんは、沈没家族とは距離を取っていて、週末にだけ加納さんと過ごしていた。沈没家族に対しての、複雑な気持ちを映画では怒りとともに表現しますよね。
加納 そうそう、あそこは監督として、おいしいシーンです(笑)。
「あんたもはっきり言って、充分毒されているよ!」「俺は別れないように頑張ったよ」とぼくに怒りをこめて話した。沈没家族の保育人に対しても、「あんたらは自由参加だけど俺は自由参加じゃないんだよ」「俺は出たり入ったりできないんだよ。ずっと土とは関係があるんだよ」と考えていたようです。
実は、当初はドキュメンタリー映画を撮るつもりではなく、卒業論文のためのインタビュー集をつくるイメージだったんです。でも山くんを撮ったところで、映画にしようと思いました。血縁じゃない沈没家族の保育人たちと、血縁の山くんとの関係が同時に見られたので。
――あそこは映画の山場ですけど、(山くんが)NGを出さなかったのがすごいなと。
加納 カメラを止められることはなかったです。全国公開の時にも応援してくれたし、映画のアフタートークも前のめりで来てくれた(笑)。穂子さんも穂子さんで、ダメ出しをすることはありませんでした。彼らは、写真学校で出会い、写真でつながっていて、表現者としてぼくをリスペクトしてくれたのはありがたかったです。
――正反対の二人のように見えて、二人ともどちらも土さんと一緒に野外で刺身を食べますよね。野外であんまり刺身は食べないよなと思って。その感じがすごく繋がっている。
加納 めちゃくちゃ繋がっていますよね。あと、それぞれがちゃんと小さい醤油を買っているのもすごい。こいつら、根本が一緒なんじゃないかと(笑)。
あと、二人とも毎年、ちゃんと書初めをするんですよ。山くんが「団結」、穂子さんが「人間解放」と書いていて、映画にもすごくつながる感じがしました。
――山くんの言葉に、共感した人はかなり多いと思います。
加納 実際、そういう感想は多かったです。ただ穂子さんは、「山くんの気持ちがわかる人が、まったくわからない」「その感想だけは、納得できない」と言ってましたけど(笑)。
「沈没家族」は「家族」なのか?
――映画撮影から本にいたるまでの「沈没家族」の一大プロジェクトの中で、「家族」という言葉への捉え方は変化しましたか?
加納 当初は記憶がない中で、沈没家族について知るところからはじめました。その時は、ぼくにはたくさんの親がいたんだなと理解していた。でも、やっぱり違うよな、と撮っていくうちにわかりました。
親という役割では言い表せないような、たくさんの人がいたなと思う。穂子さん含め、山くん含め。いま感じているのは、「家族」という言葉は、そのメンバーとそれ以外とを分けるような言葉なんじゃないかということ。「沈没家族」には「家族」とついているけど、分けたくないなと、思うようになりました。
だって、僕が知らないだけで、めちゃくちゃ色んな人が関わっているし、映画の上映後に「だっこしたことあります」と知らない人が声をかけてくれる。どういう会話の始まりなんだ(笑)。
僕が覚えていない人もたくさんいるし、覚えている人だけを家族のメンバーにするのも違う。「家族」という言葉で領域を決めるのは違和感がある。沈没家族の中には、山くんも入っているし、祖母もいる。「沈没家族」ってタイトルだけど、「家族」という言葉は少し違って、わたしを育ててくれた「集まり」とか、「有象無象」って感じ。
「家族」はひとつのテーマなんですが、父親だからどう、母親だからどうではなくて、人と人として僕が出会っていて、それぞれの関係性でみんな違うことを考えている。でもぼくのこと思ってくれたし、今でも関係性が続いているんですよね。
――最後に、次回作の構想はありますか。
加納 今すごく興味を持っているのは、祖母である、加納実紀代さんです。
――女性史研究の第一人者のひとりですよね
加納 八丈島から東京の大学に進むときに、川崎の実紀代さんの家に住まわせてもらっていて、6年くらい2人暮らしをしていました。昨年の2月に亡くなって、いまはそこに、ぼく1人で住んでいます。
穂子さんが共同保育の募集をするにあたり、ビラを手渡しで配ったのも、70年代のウーマンリブの感じを受け継いでいると思います。家にそういう本が当たり前にあったから、ヒントを得られたんじゃないか。
今でも家にはフェミニズムに関する資料も大量にあるし、実紀代さんの香りが残っている。彼女のやってきたことを勉強して知りたな、といまは思っていますね。
(聞き手・構成/山本ぽてと)
【上映情報】
■『沈没家族』書籍出版記念再上映@ポレポレ東中野
9/26(土)~10/9(金)連日 15:00~上映中
◆今後のゲスト
・10/3(土):能町みね子さん(文筆業)
・10/4(日):滝口悠生さん(小説家)
・10/7(水):山村克嘉さん(本作出演)