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「4人に1人の女性が強姦または強姦未遂の被害者であり、被害の84%は加害者と顔見知りだった」。この統計は、1988年、アメリカの『Ms.』誌において、男女学生を対象にした大規模調査により明らかになったものです。
強姦というと、ほとんどが見知らぬ変質者・一部の性犯罪者によって行われるものだと信じられていた時代。この統計はセンセーショナルに取り上げられました。
レイプ被害の84%は顔見知りの犯行。うち、73%は自分がレイプ被害者だと認識していなかった
この統計調査の方法や、顔見知りによるレイプを防ぐ方法、身近な人が顔見知りによるレイプ被害にあってしまったときに取り得る対応などは、『それはデートでもトキメキでもセックスでもない』(ロビン・ワーショウ著 山本真麻訳 イーストプレス)にまとめられています。本書は、30年以上前に発売され、未だに読み継がれているロングセラー『I Never Called it Rape』が再発行され、翻訳されたものです。
原題の『I Never Called it Rape(私はそれをレイプだとは知らなかった)』は、顔見知りによるレイプ被害者の7割以上が、自分を強姦被害者だと認識していなかったことに由来しています。
顔見知りによるレイプ被害者の多くは、「レイプとは見知らぬ男性に無理やり襲われること」だと認識していました。近所に住む好青年、かつてデートしたことのある男性、尊敬を集めている地元のヒーローなどから、「自分がまったく望んでおらず、NOと言ったのに、セックスを強要されたこと」に対して、その行為を名付けられずにいたのです。
『Ms.』誌の統計調査が、「あなたはレイプされた経験がありますか?」といった質問項目に終始していたならば、こういった「見えないレイプ」の存在は、決して明るみに出ることはなかったでしょう。『Ms.』誌は、強要と暴力を伴う性行動があったか、という設問を設け、「あった」と答えながらも、それがレイプだとは認識していない被害者の多さを明らかにしたのです。
顔見知りの相手からの性交強要は、なぜレイプと認識しづらいのか
実際にはレイプされているにもかかわらず、「セックスを強要されたけれど、レイプとは違う」と誤認してしまうことの弊害は複数あります。
第一に、被害が拡大しやすい、という点。最初にあった出来事が信じられず、何があったのか明らかにしようと、もう一度加害者と会ったために、二度目の被害に遭うというケースもあります。
第二に、セックスに対する誤った認識を植え付けられる可能性があります。処女でレイプされた場合、「セックスとはそういうものなのだ」と思い込んでしまうケースもあるのです。
第三に、被害からの回復が遅れます。自分が被害を受けたのだと即座に分かれば、訴えたり、自分の心のケアをしたりすることもできますが、被害を無視していては、被害からの回復する手段にアクセスする術がなくなってしまうのです。
「4人に1人の女性が強姦または強姦未遂の被害者であり、被害の84%は加害者と顔見知りだった。さらに、73%はレイプ被害に遭いながらもレイプだと認識していなかった」という統計は1988年の調査ですが、残念ながら、顔見知りからのレイプに対して、それがレイプだったと認識できる人の割合は、近年になってもあまり増えていません。
2015年のローラ・ウィルソンとキャサリン・ミラーによる調査によると、「認識されていないレイプの被害率は60%」です。2017年には、ヘザー・リトルトン率いる研究チームが同じ確率を確認しました。
「レイプとは見知らぬ変質者だけがするもの」という間違ったイメージは、顔見知りの相手からのレイプを、レイプだと認識することを妨げています。「レイプをするような人は人間性も下劣で、社会的に成功しておらず、汚く気持ち悪い奴」であるならばわかりやすく逃げることもできるかもしれませんが、実際にはそうではありません。イケメンでも、人気や人望があって、社会的に成功していても、「女性に不自由していない」ようにみえても、性行為を強要し、レイプ犯になり得るのです。
『Ms.』誌の調査では、「知り合いにレイプされる確率は、まったく知らない相手にレイプされる確率の4倍高い」ことが明らかにされました。あまり喜ばしくない事実ですが、「レイプ」という犯罪に限っていうなら、見知らぬ相手よりも、顔見知りの相手をこそ、警戒すべきなのです。
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