
GettyImagesより
履歴書から写真欄もなくそう
履歴書に性別を記入させることにともなう差別をなくそうと声を上げた人たちによる「履歴書から性別欄をなくそう」という署名活動のことを、SNSや報道などで目にした人もいるのではないでしょうか。
このキャンペーンには多くの署名が集まり、各省庁や文具メーカーに申し入れが行われました。その結果、2020年7月には、経済産業省の指導のもと、日本規格協会が性別や年齢、顔写真の欄があるJIS規格の履歴書様式例を削除しました(★1)。
ただ、履歴書によって助長されている差別は、性別欄だけが原因ではありません。生年月日や配偶者・扶養家族の有無、顔写真もまた、仕事への適正や能力とは関係ないのに記入するよう求められています。
「履歴書から性別欄をなくそう」キャンペーンのおかげで、性別欄は見直されることになりそうです。しかし、JIS規格の様式例はいったん丸ごと削除されたものの、性別欄以外の項目は、問題がないと判断されれば新しい様式に残り続けるかもしれません。
そこで私たちは、性別欄をきっかけに履歴書の規格が見直されている今こそ問題を改善していくチャンスだと考え、「履歴書から写真欄もなくそう」という署名キャンペーンを起ち上げました。
この記事では、履歴書の写真にはどのような弊害があるのか、前編では海外の研究事例を、後編では日本に固有の状況をそれぞれ紹介していきます。
写真からわかる人種・民族への差別
海外には、架空の履歴書を作成し、大学生に評価させたり、実際の求人に応募して二次面接のオファーが届いた数を集計したりして、履歴書の写真が採用選考に及ぼす影響を調べた研究があります。
架空の履歴書は、まず適正や能力(高い、平均的、低い)と写真(異なる人種・民族、性別、体型、魅力、写真なし)を組み合わせた複数のパターンを作成します。そのうえで、適正や能力が同等の応募者について、写真の違いで結果に差があるかを比較します。このうち、実際の求人に応募する調査で最も研究蓄積が多いのが、人種・民族に基づいた雇用差別を明らかにしたものです(★2)。
たとえば、フランスでは、マグレブ出身のアラブ人やアフリカ出身の黒人よりも、フランス出身の白人を優遇したケースが全体の70%にものぼりました(★3)。他にも、ドイツではトルコ系移民のムスリム女性が(★4)、オーストリアではアフリカ系の移民が(★5)、メキシコ(★6)やペルー(★7)では先住民が、それぞれ二次面接に呼ばれることなく履歴書で不採用になる確率が高かったと報告されています。
これらの研究では、人種・民族を推定する指標として写真のほかに名前も用いています。だから、上記の結果を写真だけの影響だと言い切ることはできません。ですが、写真も含む何らかの指標によってマイノリティだと推定された応募者は、適正や能力が同等のマジョリティの応募者よりも二次面接に進むチャンスを多く奪われていることは確かです。