
GettyImagesより
履歴書調査ではわからないこと
前編では、顔写真など、履歴書から推定される個人情報に基づいた差別が、世界各国で報告されていることを見てきました。ですが、前編で紹介してきた履歴書調査でわかることには限界もあります。
履歴書の写真欄が差別を助長しているたくさんの証拠
履歴書から写真欄もなくそう 履歴書に性別を記入させることにともなう差別をなくそうと声を上げた人たちによる「履歴書から性別欄をなくそう」という署名活動…
履歴書段階での差別の実態を明らかにするための調査では、架空の履歴書を実際の求人に応募するといった実験的な手法がとられてきました。これらは、あくまで「架空の履歴書」なので、実際に不採用になった個別の事例について採用担当者が差別したかどうかを確認したわけではありません。仮にインタビュー調査を実施したとしても、調査の意図を知らされた採用担当者が「外国人だから不採用にした」「女性は生産性が低いので雇わないようにしている」と差別を認める回答をするとは考えにくいでしょう(★1)。
管見の限り、日本では前編で紹介したような架空の履歴書を使った調査はほとんど行われていません。したがって、履歴書段階での差別を把握するのは非常に困難です。いわゆる「お祈り」とともに不採用が通知されるだけで、なぜ不採用になったのか、そこに差別があったのかを確認する術がないのが実情です。
ですが、日本でも、面接で起きた差別はたくさん報告されています。後編では、履歴書の写真に限らず、面接も含む採用選考プロセスで、見た目を理由に差別された日本の事例を紹介していきます。
見た目問題当事者が経験した就職差別
たとえば、アメリカでは、人種や民族、国籍、宗教、性別、年齢、障害、性的指向などの属性に基づく雇用差別が禁止されており、採用選考時に写真の提出を求めることもできません。こうすれば、履歴書段階での差別を防ぐことができます。ですが、実際に対面してやりとりをすれば、見た目や話し方から応募者の属性の多くを推定することができるため、面接段階で就職差別が起こることが多いと言われています(★2)。
日本でも、面接で見た目についてのハラスメントを受けたり、見た目を理由に不採用にされたりといった就職差別は、見た目問題当事者が数多く経験してきました。見た目問題とは、病気やケガによって「ふつう」とは異なる外見の人びとが経験する問題のことです。
たとえば、アルバイトの求人に電話で申し込んで面接に行ったら、顔を見るなり「その見た目じゃダメだよ」と履歴書すら受け取ってもらえずに門前払いされたり、面接で「うちは接客業なので、あなたのような人は雇えない」「お客さんが食欲をなくす」「店の雰囲気が壊れる」と面と向かって言われたりしてきました。
そこまで露骨ではなくても、「今回の募集は受付なので……」と遠回しに辞退するよう求められた人や、「ごめんなさい、もう(募集していた求人は)決まっちゃって」と嘘をつかれた人もいます(その後も募集し続けていたから嘘だとわかります)。面接の間、仕事や経歴についての具体的な話にふれず、顔の症状のことばかり聞かれて結局不採用になったというケースもあります。
また、「面接している私が差別するのではなく、差別するのはお客さんだ」といって、自分を正当化する採用担当者もよくいます。たとえば、「お客さんから差別的なことを言われても自分で対処できるか」「あなたの症状についてお客さんにいちいち説明するわけにはいかないでしょ」と、採用後に起こるかもしれないお客さんとのトラブルを(勝手に)予想して、だったら症状を隠したほうがいい、だからうちでは雇えないと暗に告げてくるのです(★3)。