妊娠のリミット意識には恐ろしいほどの男女差がある

文=清田隆之
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GettyImagesより

(※本稿の初出は『yomyom vol.64』(新潮社)です)

【一般男性と呼ばれた男】

 恋バナ収集ユニット「桃山商事」の一員としてこれまで1200人以上の恋愛相談に耳を傾けてきた清田隆之さんが、「一般男性」にインタビューをし、彼らが何を感じ、どんなことを考えながら生きているのか、彼らの声にじっくり耳を傾けていく「yomyom」の連載。

 今回お話をうかがったのは、結婚3年目で不妊治療中のアラサー男性、秋山公助さん(仮名)だ。前編では秋山さんと奥様が紆余曲折を経て結婚するまでの話を聞いた。

妊娠のリミット意識が男女で全然違う

 当連載がテーマにしている“一般男性”とは、健康で、社会人として働いていて、異性愛者でシスジェンダー(心と身体の性が一致)で──というような社会的多数派(マジョリティ)の男性像を念頭に置いている。

 もちろん個々人で様々な悩みや問題を抱えているとは思うが、群として見れば、社会に用意されている規範やシステムと自分自身の間に大きな齟齬はなく、構造的な差別や理不尽に直面することなくスーッと生きてこられた人が少なくないだろう。

 この連載に女性は登場しないが、桃山商事の元へ恋愛相談をしに来るのは圧倒的に女性が多い。ここ数年はアラサー世代の、とりわけ婚活がらみのお悩みが増えており、その背景に必ずと言っていいほど関係しているのが「妊娠のリミット」にまつわる焦燥感や危機感だ。

 ある女性は「体内でカウントダウンのタイマーが作動しているような感覚がある」と言い、ある女性は「生理が来るたびに卵子を無駄使いした気がして落ち込む」と言っていた。20代後半から30代前半は誰しも仕事で忙殺されがちな時期であり、時間的にも体力的にも余裕がない状態で結婚や出産のことを考えるのはとてもしんどい。そんな中で、自らにノルマを課すように婚活へ出向いたり、いくら言っても結婚の話し合いから逃げようとする彼氏に辟易したり、メディアや周囲の人間から受ける有形無形のプレッシャーに疲弊したりというような話を数多くの女性たちから聞いてきた。

 妊娠のリミット意識に関しては恐ろしいほどの男女差がある。男性だって加齢とともに生殖能力は低下していくはずなのに、そこに焦燥感や危機感を覚える男性は皆無に等しいと感じる。私自身、30歳のときに結婚をめぐるすれ違いで恋人と別れることになったが、その背景にはリミット意識の差が確実に存在していた。別れたあと、自分がこの問題にいかに無知で無自覚であったかを知り、猛烈に後悔した。

 これはおそらく構造的な問題であり、同じような経験をした男性も少なくないのではないか。しかし、男の人たちから聞く恋バナや失恋体験の中で妊娠のリミットにまつわる話が出てくることはほとんどない。

 今回お話を伺ったのは、建設会社に勤務するアラサー世代の秋山公助さん(仮名)。結婚3年目、1歳下の妻と妊活に励むもなかなか妊娠に至らず、今は夫婦で不妊治療に臨んでいる。子どもの頃からバスケットボールに勤しみ、関東有数の強豪クラブチームでのプレー経験もあるスポーツエリートだ。

 お会いしての第一印象は真面目で聡明、男女双方からモテるタイプといった感じで、実際、会社でも人間関係に恵まれているという。地元に新築のマンションを購入し、週末は仲間たちと趣味のバスケで汗を流すなど、外から見た彼の人生は概ね順風満帆に見える。

 しかし一方で、出勤前に採れたての精子をクリニックへ提出し、残業が当たり前という環境で朝から終電まで働き、月を追うごとに精神的に追い込まれていく妻を支え、「うつ病の予備軍」に該当する状態でなんとか日々を暮らしているという自認がある。

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