
左:婦人科形成・奥村智子先生/右:産婦人科・宋美玄先生
多くの女性にとって女性器は、「自分の身体にあるのによく知らないところ」ではないでしょうか。子どものころに「さわっちゃいけません!」と大人からいわれ、できるだけ見ないよう、触れないよう、考えないようにしてきた女性は少なくないはずです。
その一方で女性器はトラブルが発生しやすいところでもあります。蒸れ、かゆみ、お風呂が入ったときにお湯が腟内に入り、あがるときにそれが出てくるといった日常的な悩みから、痛い、ゆるいように感じるというセックスの悩みまで、そしてこれが人に相談しにくいこと、このうえない……。
どこに相談すればいいの?
解決策はあるの?
自分で何とかできるならしたいんだけど。
何から手をつけていいのかまったくわからず不快を我慢しつづけている女性に、手をさしのべる医師がいます。
ひとりは産婦人科医の宋美玄(ソン ミヒョン)さん。2018年に東京駅近くに「丸の内の森レディースクリニック」を開業して以来、女性たちの悩みにより近く接するようになったといいます。妊活や月経困難症についてだけでなく、性器のトラブルについて相談されることもしばしば。
もうひとりは、婦人科形成の専門家で、今年7月に開院した東京・新宿「ルクスクリニック」院長の奥村智子さん。婦人科形成とは、女性器の悩みを改善するための施術のことで、奥村さんはこのジャンルにおいて10年以上のキャリアを積んできました。
ふたりの専門家による対談から見えてきた、女性器にまつわる悩みの解決法、そして日本人女性の性器との向き合い方とは?

宋美玄
産婦人科専門医・医学博士・FMF認定超音波医 1976年 兵庫県神戸市生まれ。2018年に丸の内でレディースクリニックを開業し、思春期から性成熟期・更年期・老年期まで、女性のライフステージに合わせたチェックとケアを提供する。また、婦人科医の視点での社会問題の解決や、ヘルスリテラシーの向上にも取り組んでいる。 https://www.moricli.jp/

奥村智子
日本美容外科学会専門医(JSAS) 美容外科医として11年のキャリアの中で、のべ5万例以上の症例を経験。大手美容外科では、その時点で10年を超える歴史に於いて初の女性院長となり、その後エリア統括院長も務めた。2020年にルクスクリニックを開業、女性特有の悩みに確かな技術と知識で応える。 https://lux-clinic.jp/
宋:奥村さんのクリニックでは、女性器についてどんな悩みを持つ方がいちばん多く来られますか?
奥村:小陰唇の悩みですね。縮小手術を希望される方が多いです。小陰唇とは腟口の周辺にあるヒダ状の器官ですが、人によってはかなり大きくなっていたり、左右の大きさが極端に違っていたりします。下着でこすれたり、座るときに押しつぶされたりすると、痛みが出ちゃうんですね。手術で小陰唇のはみ出ている部分を切ることで解消できます。
宋:私のクリニックでも多いです。片方の小陰唇だけ伸びていて、一緒にお風呂に入っていた子どもに引っ張られたっていう話も、実はあるあるなんですよね。あとはパートナーから何かをいわれてコンプレクスを持っていたり。
奥村:基本はその人の捉え方だとは思うんですよ。私から見れば特に肥大しているわけでもなく、小さめの小陰唇なのに本人がすごく気に病んでいることもあれば、その逆でかなり大きくなっている人ほど皮膚が厚くなっているから、こすれても痛みを感じにくくてまったく意識していない。気にしてるのは全体の数%に過ぎないのですが、それでもひとりひとりの悩みは深いですよね。
宋:私は産婦人科医として診ているので、見た目のコンプレックスであれば、「100人いたら100通りの性器の形があるから、別に異常ではないし、左右対称じゃない人もたくさんいますよ」とまずは伝えますが、正常だといわれたところで自信が持てないまま、ということもあって。
奥村:婦人科形成に来られる方はもう最初から「手術を受ける」って決めている方がほとんどですね。20代後半~40代の女性が多いです。本人は10代のときから悩んでいたけれど、親にも相談できず、成人してからお金を貯めて手術を受けにこられるので、そのくらいの年齢になるのでしょう。
宋:デリケートゾーンのVIO脱毛をしたのを機に、小陰唇を気にしはじめる方もいますよね。これまでヘアで隠れていたものが露わになるから。奥村さんのクリニックでは、VIOの医療レーザー脱毛もしていますよね。最近ではよく「介護を受けるときのために」と50代、60代の女性が脱毛をするという話も聞きますが、実際は?
奥村:少なくないですよ。ただ、レーザー脱毛は基本的に黒色に反応するもので、白髪が多くなると抜けなくなっちゃうので、早めにはじめられることをオススメしますね。
自分がどうしたいか、を判断基準に
宋:VIO脱毛は私のクリニックでもかなりオススメしています。性器周辺のかゆみで来院される方はとても多んですよ。なかには毛嚢炎(もうのうえん)をくり返している女性もいます。
検査の結果、カンジダ腟炎が原因のかゆみだったとわかることもありますが、それはケースとして少なくて、どちらかというと「蒸れやかゆみは、毛量の多さからくるものだろう」と判断するケースのほうが多いんです。
そうすると提案できる解消法はあまりなく、「よく洗ってください」「ふき取りシートで汚れをぬぐってください」ぐらい。かゆみをおさえる軟膏を出すこともありますが、毛量が多いと皮膚まで届かないことも多くて、根本的に解消されないまま……ということがあります。それよりも脱毛でかなり改善できると思ってオススメするのですが、「それはちょっと」といわれることがあって。
奥村:ヘアを全部なくさなくても、レーザーを全体に当てると間引かれて毛量が減るのでだいぶ変わってきますよね。毛嚢炎にもなりにくくなるんじゃないかと思います。
宋:デリケートゾーンは自然のままで何もしないほうがいいと思っている女性は、一定数いますね。自分がどうしたいかよりも、人にどう思われるかが判断基準になっている女性もいて、介護のために脱毛、という発想にもそれを感じます。ヘアを脱毛するにしても、そのままにしておくにしても、「自分はどうしたいか」で決めてほしいですね。
奥村:うちは美容クリニックもやっているのでいろんなコンプレックスをもたれた方が多いのですが、お顔の悩みを解消されたあとで実は性器についてこれまで悩んでいたことがあったから、それも相談しようかなという方もいれば、その逆で性器の悩みから解放されたあとにお顔の相談をされる方もいます。悩みが解消されることによって本人が積極的になるという点は、どちらにも共通していますよね。「自然がいいから、悩みもそのままに」というのではなく一度、相談してほしいと思います。
<後篇につづきます>
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