小児科医が提言、子どもの感染対策「やりすぎ」はもうやめませんか?

文=森戸やすみ
【この記事のキーワード】
小児科医が提言、子どもの感染対策「やりすぎ」はもうやめませんか?の画像1

GettyImagesより

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、新規感染者がなかなかゼロにはならないものの適正な対応策が少しずつわかってきましたね。そろそろ“念のため”とやりすぎ感のある対策をスリム化、簡素化していく時期ではないでしょうか? 私が問題だと思っているのは、下記のような例です。

小児科医が提言、子どもの感染対策「やりすぎ」はもうやめませんか?の画像2

小児科医が提言、子どもの感染対策「やりすぎ」はもうやめませんか?の画像3

小児科医が提言、子どもの感染対策「やりすぎ」はもうやめませんか?の画像4

 マスクを忘れてしまった登校中の小学生が、知らない男性に「マスクをしろ」と怒鳴られて泣きながら登校した(帰ってきたというツイートも)、自分はマスクを適切に付けない男性が乳児にマスクをするよう要求した、スーパーで女性が子どもに心ない言葉をかけたという話です。“マスク警察”と呼ばれる、他人のマスクに口うるさく言う人ですね。

 実際、私の小児科外来では乳児以外みんなマスクを付けてきてくれます。でも、子どもが小さいほどマスクを上手に扱うことができません。鼻を出した鼻マスクになっていたり、診察時に取ってもらったところ鼻水だらけですごいことになっていたりします。日本小児科学会は、「乳幼児はみずから息苦しさや体調不良を訴えることがむずかしく、呼吸が苦しくなったり嘔吐したりした場合に窒息の危険があり、暑いときには熱中症のリスクが高まる」といっています。そのうえ、正しく装着することができないので、感染拡大抑制の効果は期待できません。

 以上の点から、2歳未満の子どもがマスクをする際は大人が注意をする必要があると言っていますし、アメリカ小児科学会はさらに「2歳未満の子どもには顔を覆う布(マスク)を使用しないでください」とまで言っています。WHOは5歳以下の子どもにマスクを義務付けるべきではない、6〜11歳でも以下の条件のときには必要があると限定していて、それ以外は特に着用の必要はないとしています 。

・子どもがいる場所で感染が拡大している
・子どもがマスクを適切に扱える
・マスクを入手しやすく洗濯や交換などが適切に行える
・マスクの脱着を大人が適切に指導できる
・教師や保護者、医療者にマスクを付けることが学習や心理学社会的発達に与える影響を相談できる
・他の基礎疾患のある人、高齢者のように重症になる可能性のある人と一緒にいる

 そもそもマスクは、感染している人がウイルスを広めないために重要なものです。アメリカのトランプ大統領が新型コロナウイルスに感染しました。10月1日に検査で陽性だったものが当初は公表されず、明らかになった途端に入院し、あっという間に退院しましたね。ニュース画像によっては、マスクなしに人前で話をしているところが写っていましたが、まだウイルスが排出されている時期だったでしょう。こういった人こそぜひともマスクをするべきで、症状がなくおしゃべりしないで登下校している子どもを叱りつけるべきではありません。

 東洋経済オンラインでは新型コロナウイルス国内の状況という特設ページがありますが、年代別に感染者数が示してあり10歳未満の感染者は圧倒的に少ないことがわかります。報告されている各国の感染経路も大人から子どもというパターンが多く、子ども同士や子どもから大人はわずかです。「子どもは感染したとしても症状が少ないから念のために注意してやっているんだ」という人がいたら、新規感染者がとても多い20代、30代の人に要請するべきです。子どもを狙い撃ちして叱責するのは、弱い者いじめです。

 また、政府の要請によって2020年3月2日から多くが5月いっぱいまで休園・休校になりました。家にいるしかない子どもの面倒を見ながら在宅で仕事ができる人ばかりでなく、託児施設やシッターサービスを使うこともできず、収入が減るぶんを国が補填してくれることもなく、本当に大変でしたね。その後、分散登園・登校となり、通常どおりの登園、登校が再開してだいぶ経ちましたが、保育園・幼稚園や学校では感染者が集団発生していません。

 休校の要請は、安倍前総理が「子どもたちを守ろう」と述べ、「国の責任ですべて対応する」として、専門家や文部科学省と十分な検討をせず実施が決まったと伝えられています。民間の調査会が新型コロナ第一波の対応を検証した報告書では、あの一斉休校が疫学的にほとんど意味がなかったとのことで、本当にがっかりです。今後は、政府などが一律に決めるのではなく、専門家や現場の保育機関・教育機関の意見を取り入れてほしいものです。

 9月に東京新聞で、公立小学校で保護者が校舎を消毒するというニュースがありました。少しでも感染の危険性を下げてあげたいという気持ちはわかります。以前は教員が消毒をやっていたので、負担を減らそうと保護者が始めたそうです。これは、他の園や小学校でもやらなくてはいけない、やったほうがいいことでしょうか?

 文部科学省が、『学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル〜「学校の新しい生活様式」〜』というものを出しています。2020年9月3日バージョン4で、消毒は「感染者が出た発生した場合でなければ基本的には不要」「実施する場合には、極力、教員ではなく、外部人材の活用や業務委託を行うことによって、各学校における教員の負担軽減を図ることが重要です」と書いてあります。感染者が出たときには消毒するべきですが、日常的に学校の先生や保護者が消毒しなくても大丈夫です。「(感染者が発生した場合の消毒について)症状のない濃厚接触者が触った物品に対する消毒は不要」、「物の表面についたウイルスの生存期間は、付着した物の種類によって異なりますが、24時間〜72時間くらい」とも書いてあります。東京新聞の写真にあるように拭いたりしなくても、時間を置くだけでもよさそうですね。

 これから私たちは、新型コロナウイルスと長いあいだ、付き合っていかなくてはいけません。労力やお金をなるべくかけないように対策をしていかないと続きませんね。未知の感染症の流行初期には、予防のためにいろいろなことをします。感染症になってからの治療もそうです。病気についてわからないうちは、救命のために少しでもいいと可能性のある治療をしますが、そのうちに確かに効果のあることだけにしぼられていきます。それと同じく、感染予防も念のためとやりすぎがわかったら削ぎ落としていかないといけません。

 知識を更新しながら、感染収束までがんばりましょう。

「小児科医が提言、子どもの感染対策「やりすぎ」はもうやめませんか?」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。