機能不全家族の親が死ぬとき、成人した「子ども」にまた嵐が訪れる

文=大和彩
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 本書を手に取るだけで伝わってくるものがあるようでした。それはきっと、おおたわ史絵さんの「並々ならぬ覚悟」だったのだと思います。

 大和彩です。おおたわ史絵さんの新刊『母を捨てるということ』(朝日新聞出版)は麻薬性鎮痛剤に依存していた母と、医師でありイネイブラー(相手を大切に思うがゆえ依存症を悪化させてしまう人)の父が築いた家庭で育った過去、ご自身の生きざま、さらに医師としての見解、依存症とはどういうものなのか、といった解説なども交えておおたわさんにしか書けない唯一無二の内容です。

 同時に著者おおたわさんが、私が言うのもなんですが、かなり腹をくくって、率直にすべてを書いているところが泣けます。医師としても個人としても、「書いて大丈夫なのかな?」とこちらが勝手に心配になるまでに率直です。誰に何を言われてもいい、という硬い意思、勇気、そして知性に脱帽する思いです。

 虐待家庭当事者には当然として、当事者ではない人にもおすすめです。依存症に関する最新の知見も盛りだくさんで、ほかの本で読んだことがなかったこともたくさん載っていました。”毒親”家庭出身の方にも、そうでない方にも読んでいただきたい一冊です。

過去については伏せつづけてきた

 おおたわ史絵さんは医師、コメンテーターなどとして多方面で大活躍中の方です。TOKYO MX『5時に夢中』(以下「5時夢」)というテレビ番組のコメンテーターなので私も以前から存じ上げていました。

 私、テレビはだいたい「5時夢」しか見ないし、家にいないときは録画して観賞するほど大好きです。ここ10年ほどの放送回ならばほぼすべて見ているはず。コメンテーター・おおたわさんのお衣装の傾向や、ポールダンスをされていること、現在は刑務所などの矯正施設において受刑者を診る「矯正医療」のお医者さんであることは、私にとって当然の知識でした。

 加えて「5時夢」出演時の言葉の端々から、自分と似た匂いを察知し、「過去にたくさん痛みを経験なさった方なのかも?」と漠然と想像してはいました。

 けれどまさか、おおたわさんが本書に書かれているような壮絶な生育環境にいたとは夢にも思っていませんでした。「5時夢」という社会的弱者にやさしい番組でさえ、おおたわさんが自身の過去について一切語ってこなかったからです。

 この事実からも、過去におおたわさんがどれほどの想いを抱えてつづけてきたか、そしてどれほどの覚悟で本書の執筆にあたったか、お気持ちが痛いほど伝わります。冒頭に書いたように、本書を手に取るだけで泣けてくるのは、そのためです。

機能不全家庭で育った身として

 この本のご紹介にあたり適当だと思うので少し自身のバックグラウンドを説明します。

 私は機能不全家庭で育ち、父母ともにアルコール依存。私は両親からの虐待やDVに由来する鬱・パニック障害・PTSD・睡眠障害などを今も治療中で、家族とは断絶しています。

 過去には『毒母ミーティング』というイベントにゲスト出演させていただいたこともあります。経験した虐待や家族問題について考えつづけることは、「あなたのライフワークでしょうね」とカウンセラーに言われたこともあります。サイアクです。

 なんとか両親の支配から抜けるまではこぎつけましたが、これですべて終わったわけではなく、今は台風の目の中にいるだけ。ライフワークでまた大荒れの日々がくるでしょう。

 怯えています。

「その大荒れは両親が亡くなる前後にきます」

と私の中の気象予報士がささやくからです。

 その大荒れを過ぎたところで、台風一過となるのかどうかも不明。いつが最終なのか誰にもわからないのが怪獣一家の病理というもの。私は死ぬまでその来襲にビビりつづけるのでしょうか。そうならないよう今から備えたいところです。

虐待親が死ぬとき

 昨今、”毒親”というワードはお茶の間にも浸透し、いちジャンルを築くほど多くの本が世に出ていますが、本書には他とは決定的に異なる点があります。それは、自分を虐待した親の死を確認した瞬間、そしてその後までを書いてくれている点です。

 親が死に、残された者はどうすればいいのか? 

 これはどんな家庭出身であろうとむずかしい問題ですし、高齢化著しい日本社会全体が抱える問題でもあります。

 しかし、われわれ機能不全家庭出身者は両親の死に際して、世間一般とはまた違った心構えや医療サポート、そして法的手続きが【必ず】必要になるはずです。

 通常の家庭の方々より大変と言いたいのではありません。一般的に親の死に際して乗り越えるのとは種類の違うハードルに遭遇するであろう、ということです。

 災害などで避難が必要なときに備えて緊急避難袋を用意するのは、今の日本では常識です。それと同じように、ある程度の年齢になった毒親家庭出身者には、「虐待してきた親が死んだとき用の緊急袋」が必要だな、と最近つくづく思うのです。災害用のそれと同様、自分を守るためにも、周りへの迷惑を最小限にするためにも。

 毒親家庭からの脱出時、私は「毒親脱出袋」ひとつを背負い(リュック型なので)、とことこ歩いて出てきましたが「死んだとき用」には何を詰めたらいいのかわかりません。中身は自分でそろえる必要があります。

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