
左・澁谷果歩(写真:オノツトム)/右・要友紀子
元AV女優で、現在はライター・タレントとして活動している澁谷果歩氏が小社より『AVについて女子が知っておくべきすべてのこと』を出版した。
本書はAV女優としてデビューするプロセスから、契約書の書き方、ギャラの内訳など、澁谷氏のAV女優としての経験も入れ込みつつ「AV業界のリアル」を書き込んだもので、この本を読めば「AV業界で働くこと」の良い面と悪い面がよく分かる。
セックスワーカーのための団体・SWASHの代表を務める要友紀子氏は、この本を<裸系のお仕事をする前や始めた人に読んでほしい>(9月20日投稿のツイート)と激賞。セックスワーカーの労働をテーマに書かれた本として非常に良い教科書であると評価した。
今、この日本においてセックスワーカーを取り巻く諸問題をどう捉えていけば良いのか。要氏と澁谷氏が語り合った。
(2020年10月5日、Zoomにて収録)

澁谷果歩
元AV女優。現在はライター・タレント。東京都千代田区生まれ。青山学院大学卒業後、新卒で東京スポーツに入社。記者としてプロ野球取材などを行う。退社後の2014年11月にAVデビュー。オムニバスも含め、約750本の作品に出演し、2018年9月に引退。近年はコスプレイヤーやMCとして海外のアニメイベントに参加するなど国外での活動も積極的に行っている。

要友紀子
セックスワーカーとして働く人たちが安全・健康に働けることを目指して活動するグループSWASH(Sex Work And Sexual Health)代表。『売る売らないはワタシが決める 売春肯定宣言』(ポット出版)、『性を再考する 性の多様性概論』(青弓社)、『セックスワーク・スタディーズ 当事者視点で考える性と労働』(日本評論社)といった書籍の編集や執筆に関わる。
要友紀子(以下、要) 澁谷さんの書かれた『AVについて女子が知っておくべきすべてのこと』を読ませていただきました! この本は私にとってパーフェクトな本で、風俗業界でもこういう本があればいいな……と思ってたんですよ。
澁谷果歩(以下、澁谷) わー、ありがとうございます!
要 澁谷さんの本のどこがそんなに良かったかというと、いろいろな視点から書かれているところですね。
まず、契約書の内容やギャラの配分などの労務自主管理について書かれていて、実用書として役に立つ。特に、2016年に勃発した「AV強要問題」を受けての業界の変化は時事的な内容で面白かったです。
あと、心理学的な要素もありますよね。AV女優は、マネージャーをはじめとした事務所のスタッフや、監督・男優など製作現場の人たちから「○○してほしい」といった働きかけを受けます。そうした要求を受けた時にどんな判断に基づいて行動しているかが、自身の経験を踏まえつつ客観的に書かれている。
これは、セックスワーカー当事者の人はもちろん、私たちのような支援する立場の人にとってもすごい役に立つと思いました。他にも、澁谷さんがAV業界の文化や働く人たちのパーソナリティーに興味を寄せて文化人類学的な考察をしているから、そのフィールドワークとしても読めるところがいいなと。
澁谷 いやいや、光栄です。
要 『AVについて女子が知っておくべきすべてのこと』は、これまで日本にはなかったタイプの本だと思います。
海外ではこういった本はけっこうあるんです。たとえば、SWOPというオーストラリアのセックスワーカーの団体が出している『The Professional』という本があります。
これは新人セックスワーカーのために書かれた本で、「お金はもらえるけど、きちんと貯金しないとどんな問題が起きる?」とか「病気になって働けなくなったらどこに支援を求めればいいか」とか、仕事のやり方から、お金の管理のことまで、当事者ならではの視点ですべて網羅されている。
澁谷さんの本も、セックスワーカーとしての経験のある人でしか書けないものだと思いました。
澁谷 いまはフリーで活動しているんですけど、事務所に所属している時代だったら、各方面に忖度して書けない部分がいっぱいあっただろうなと思います。
要 やっぱりそうですよね。そこがこの本のすごいところだと思います。