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勤務時間、勤務地、給与、休暇、職場の雰囲気……職業を選択するとき、多くの人は事前に色々な情報を調べるだろう。
『AVについて女子が知っておくべきすべてのこと』(サイゾー)を上梓した、元AV女優の澁谷果歩さんは、AV出演においても<いろんな職種で説明会やセミナーやOB・OG訪問があるように、志望するなら事前にその業界の情報を得ておくべきです>と話す。
9月20日、同書の刊行を記念し、女性を自認する方限定でオンライントークイベントが行われた。イベントでは、フリー編集・ライターの三浦ゆえさんが聞き手となり、澁谷さんがAV女優としてデビューするまでの経緯や、現役時代に疑問に感じたこと。実際に撮影現場で見聞きしたこと、AV女優という職業のメリット・デメリットなどについてトークが交わされた。本記事ではイベントの一部をレポートする。

澁谷果歩
東京都千代田区生まれ。12年間の女子校通い後、青山学院大学卒業。初体験は23歳。新卒でスポーツ新聞社に就職し、記者としてプロ野球取材などを行う。退社後、2014年11月にAVデビュー、オムニバスを含め約750本の作品に出演し、2018年9月に引退。その後は執筆やタレント活動を続けている。TOEIC満点(990点)。近年は外国での活動にも力を入れ、コスプレイヤーやMCとして海外のアニメイベントに多数参加。インスタグラムフォロワーは117万人(2020年10月現在)。

三浦ゆえ
富山県出身。フリー編集・ライター。複数の出版社を経て2009年フリーに。女性の性と生をテーマに編集、執筆活動を行う。『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』シリーズや『女体大全』『#赤ちゃん相談室』『子育てはだいたいで大丈夫』『小児性愛という病』『セックス難民』『夫のHがイヤだった。』『呪われ女子に、なっていませんか?』などの編集協力を担当。著書に『セックスペディア-平成女子性欲事典-』がある。<「an・an」の〈セックス特集〉に、巨大な変化が起きていた…! 「愛され」から「女性の主体性」へ>が話題に。
「自由に選んでいい」けれども「NOと言えない雰囲気」
三浦ゆえさん(以下、三浦):『AVについて女子が知っておくべきすべてのこと』では、ご自身が見聞きし経験されたことを、実際の源泉徴収票を載せられるなどして、かなり踏み込んで書かれていますよね。まず、AV業界に入られたときのことはどのように捉えているのでしょうか。
澁谷果歩さん(以下、澁谷):私がAV業界に入ったきっかけは、アダルトグッズのモニターに応募したことでした。プロフィールの希望欄にアダルトグッズのモニターしかチェックを入れていないのに、面接に行ったら「エッチなことをしないAVのエキストラ」の説明をされて。「それならいいかな」と思って登録したら、その日のうちに宣材写真を撮られました。その後AVメーカーに面接に連れていかれ「どっちの会社にする? どっちもなしっていうのだけはやめてね?」と言われて……NOと言える雰囲気はありませんでした。私が「あれは出演強要だった」と言ったら、今だったらアウトですね。
ただ、私個人としてはAVに出演したことは後悔してませんし、現在の糧になっています。納得して始めた部分もありますし、あのとき強要だったとは捉えていないです。ですが、「NOと言えない雰囲気」がすごく強くて、他の人に同じようなことが起きてはいけないとは思っています。
三浦:無理やりではないにしても、「こういうふうにしなければいけない」という圧をかけるというのは、女性にとっては強要だと認識しづらいところがありますね。
澁谷:もう少し詳しくお話すると、デビュー作のときに2つのメーカーを提示されて。私は条件を聞いた中でA社がいいなと思ったんですけど、マネージャーは「自由に選んでいいよ」と言いつつも、B社を推してくる。最終的にはB社でのデビューに決まったんですけど、その理由もマネージャーの失態が原因で。結果的にはB社でデビューしたことによって、AV女優としてのキャリアも自分の望む方向に進められたのでよかったんですけど……。
当時、AVのメーカーにはレンタル系とセル系(※)があったものの、そもそも2つの違いもわからなかったですし、なぜプロダクションがレンタル系であるB社を推したいのかも説明してくれなかった。長く仕事をする信頼関係を築くという点では、ちゃんと説明してほしかったな……とは思いますね。マネジメント側が「わからないままでいいから言うとおりにしなさい」という感じで、女優をコントロールしているような感覚も覚えました。
※AVメーカーには流通経路の違いによってレンタル系とセル系があり、「レンタル系の方がモザイクが濃い」などの特徴があった。現在はどちらの系統でもレンタル・セル両方とも扱っていることが多く、そのような分類はなくなってきている。
私はAV自体、知り合いが出てるものを興味本位で見たことはあっても、性的欲求を満たそうと思って見たことはなく、そもそもAVがどういうものかわからなかったんです。それなのに要所要所で十分な説明がされないまま、プロダクションの人やマネージャーが「この業界はそういうものだから」と進めることが多かった。
「NOと言えない雰囲気」を感じながら、流されるように色々なことが進んでいきました。どこの会社でも先輩から「そういうものだから」と言われることってあるとは思うんですけど、AV女優って特殊な仕事ですし、肉体的にも傷つく可能性があるので、きちんと知らせるべきことは知らせなくてはいけないんじゃないのかなと思いますね。
三浦:よくAV女優は「簡単に稼げる」みたいに言われますが、実際はどうなんでしょう?
澁谷:何と比べるかにもよるとは思うんですけど、私自身は「楽して稼げる」とは感じませんでした。いつまでオファーがあるかわかりませんし、基本的にはデビュー以降どんどんギャラは下がるシステムです。
引退後にパートナーや子どもに知られたくないからと、削除申請をしてもどこかに映像や画像が残る可能性はありますし、現役中に家族や友人にバレたときのこともありますし……。
引退してからでも周囲の偏見を感じることがあります。同級生や前の会社の人に関しては「縁を切ればいいじゃん」って思っているのですが、私は実家が都内なこともあり、家族に会わなくなるのは難しい。AV女優の中には親バレしても表面的には仲良くしている人、親は知ってても仕送りしているから何も言われない人など色々ですが、私の家族は「AVに出て家族に恥をかかせて」というタイプで、バレた後も「海外でこっそり暮らせば」と言われました。家族と仲良くすることと、自分らしく生きることを天秤にかけたとき、後者を選択するなら家族との関係を絶つような選択をしなくてはいけないかもしれません。
人は自分にとって「この仕事なら私はできそう」って思う部分があるから、その仕事を選ぶんですよね。AV女優を選択したということは、その人にとって他の仕事よりできそうなことだったのかもしれない。そういった点では、AV女優は仕事の選択の一つでもあると思います。
ただ、AVは世間の目やパートナーとの関係などで悩むこともあるので、そういった犠牲を払っても、夢や目標のためという思いがしっかりしていないと、続けていくのは難しいと思います。生活水準にもよりますが、普通にご飯を食べていくだけなら、他の仕事の選択肢があるのではないでしょうか。
三浦:性産業は、お金がないとか騙されたりとかで仕方なく仕事をはじめた人が多いというイメージを持たれがちですが、澁谷さんが知っている中でAV業界で主体的に働いている人はいましたか。
澁谷:騙されて業界に入ったと言ってる人もいましたが、結局は前向きにやっているのかなという印象です。
AV女優の仕事はセックスシーンの撮影だけでなく、CD発売やテレビ出演などアイドル活動も含まれています。なので、「恵比寿マスカッツさんや飯島愛さんみたいになれるかもよ」と言われ、アイドルになりたくて始めた人もいます。アイドル活動は好きだけれども、セックスシーンの撮影や、ファン対応イベントはやりたくないって言っている人もいました。
それでも辞めてないってことは、AV女優でいることが金銭的な面や、自己顕示欲など、何かしら自分にとってプラスになることだから続けているんじゃないかな。今は事務所が無理やり続けさせることも難しい時代ですし、普通の会社と同じで「あまりにも辛かったら辞める」という選択肢はあると思います。