シャープペンシルにもいろいろなタイプがありますが、実は芯を繰り出す方法にも種類があるのをご存知ですか。
一般的なシャープペンシルは後端をノックし、カチカチと芯を出しますよね。それ以外にも、振って芯を出す振り子式、先端のガイドパイプがスライドして芯が出るオートマチック式、ボディをくの字に折り曲げるようにしてノックする軸中中折れ式、そしてボディ中央にあるボタンを押すことで芯を繰り出す軸中押し式(サイドノック)などがあります。
中でもサイドノックシャープは、ノックのためにペン本体を持ち替える必要がなく、わずかに親指をずらすだけでノックができるもので、振り子式のように分銅の移動音を気にすることもありませんし、オートマチック式のようにパイプ先端が紙面に触れて書きづらいということもありません。軸中中折れ式も悪くはないのですが、安価なシャープペンシルには搭載例が少ない機構です。
そんなサイドノックシャープですが、やはり主流とは呼びがたいのか、定番としてラインナップに残すメーカーが少なく、ファンとしては選択肢が少なくて寂しい製品群でもあります。
かつてサイドノックシャープの歴史上、最も売れた製品がありました。1996年に発売となった、ぺんてるの「ピアニッシモ」というシャープペンシルです。
ピアニッシモは、それまでに発売されてきたどのサイドノックシャープよりもノックが軽く、女性や児童でも軽いタッチでノックのできる製品でした。またボディはメカが見えるトランスルーセント、カラーリングも後端キャップとノックボタンの色を揃えるなど、お洒落で軽快なデザインも評判を呼びます。結果として、女子中高生のマストアイテムとなり、発売初年度で800万本を売り上げる人気商品に成長しました。
そのピアニッシモが、2020年に限定復刻として蘇りました。カラーラインナップは8種類。4種類は、オリジナルの復刻版です。当時のトランスルーセントデザインを踏襲した透明ボディに、後端キャップとノックボタンを揃えたカラーリングのもの。色は黒、赤、青、緑です。
4種類は、2020年になってからの新色です。まず、当時はなかった、ボディが白のタイプが2種類あります。ピンクは白軸に後端キャップがピンク、ノックボタンはグレー、先端は黒。ターコイズブルーは後端キャップがターコイズブルー、ノックボタンは紫、先端はピンクです。
それと、カラー透明ボディのものも2種類あります。イエローはキャップとノックボタンと先端がイエローで、ボディは透明グリーン。スカイブルーは後端キャップとノックボタン、先端がスカイブルーで、透明ボディはピンクです。
シャープペンシルとしての機能は、オリジナルと変わりません。ボディにあるノックボタンを押して芯を出します。後端キャップはクリップと一体になっており、外すと大きめな消しゴムが装着されています。替芯を補充する際には、この消しゴムを外して中に芯を入れます。
オリジナルになかった大胆な色使いの4種は2020年に新たに考えられたものですが、コンセプトは「1990年代」。中高生の間で90年代のポップなカラーリングが流行していることから、復刻と新作でありながら統一感のある製品群となっています。
ピアニッシモという製品名は、過去のサイドノック製品よりノックが軽くなったこと(pianissimo=イタリア語でvery soft、音楽用語で「とても弱く」)と、オリジナルが発売されていた時期に発売されていた極細の紙巻き煙草「セーラム・ピアニッシモ」から取られました。当時の白いパッケージに淡いグリーンのライン、中に入っている極細のシガレットに、クールでシャープな印象を持っていたのかもしれません。
実際に復刻された製品を手にしてみますと、その当時を知っている身としては「なるほど90年代のデザイン」と納得してしまいます。ただ、古くさいというよりは、「20世紀の終わり頃からある筆記具はこういう形をしていて、それって今でも生き残っているものけっこうあるよね」という印象です。個人的には白軸の2種類は、古くささすら感じませんでした。
ぺんてるは1996年、ふたつのビッグタイトルを入手します。ひとつはこのピアニッシモ、そしてもうひとつは先行して発売されていたハイブリッドミルキーです。90年代半ば、文房具店で売られる筆記具の主流は明らかに女子中高生向けに傾いていました。今までの事務用品一辺倒で男性目線の製品が主流、女性向けはあってもファンシーだったりブランドを冠したものだった文房具が、急激に華やかになっていく時代──その先端を走る製品をぺんてるは手にしていたのです。
ピアニッシモは2020年の現代でも、シャープペンシルをメインにする中高生にはもちろん、最近シャープペンシルを使わなくなった社会人の方にも懐かしんでもらえる、そんな製品です。
(他故壁氏)