出産して「夢も希望もない」と泣いた…緊急事態宣言下で直面した産後うつ

文=玉居子泰子
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GettyImagesより

 「産後うつ」という言葉が広く知られるようになった。「産後うつ」とは、出産後すぐから1年未満の間に、気分の落ち込みや、意欲・関心の薄れ、食欲低下や睡眠障害、焦り、疲労感の増加、集中力の低下などがみられ、2週間以上続くことで生活に支障をきたす状態を指す。

 日本産婦人科学会によれば発症率は5〜15%。出産直後、ホルモンバランスの急激な変化によって起きる抑うつ状態「マタニティブルーズ」とは分けて考えられるが、産後うつの原因や実態ははっきりとはわかっていない。

 2015〜16年に妊娠中から産後1年未満に亡くなった妊産婦のうち約30%が自殺で、最多の死因であったことが国立成育医療研究センターの調査でも明らかになっているように、時に重度化することもある。

 だが一方で、SNSでの「産後うつなんて甘えだ」という発言が物議を醸したり、「赤ちゃんを育てるのが大変なのは当たり前」「そのうち良くなる」ーーそんな言葉で、産後の親の孤独や苦しさが軽視されたりもする。

 今年4月に第一子を出産した高井あさみさん(仮名・43歳)もまた、妊娠・出産を経験して、自分の心の変化に戸惑っている一人だ。

コロナ禍で孤独な出産。赤ちゃんは可愛いけれど…

「娘は基本抱っこしていないと泣いちゃうんです。繊細なのか昼寝もなかなかしてくれなくて、ちょっとした音で起きちゃう。生後4カ月を過ぎて最近、夜泣きも始まったみたい」

 パソコン画面の前で、あさみさんはたったまま赤ちゃんを抱っこしゆらゆらとあやしながら、オンライン取材に答えてくれた。初秋の気持ちのいい天気の日だったが、彼女は汗をかいて「今日、暑くないですか?」と言う。

「体も火照ってるし、ホルモンバランスが崩れてるのかも。年齢も年齢だから更年期障害なのかな? 心身の不調は最近、全部ホルモンのせいにしてる(笑)」

 40代になってからの初産。妊娠発覚後に籍を入れた夫とは、妊娠中は別々に暮らしていた。また、安定期となる妊娠6カ月を過ぎるまであさみさんは親や家族、友人にも妊娠を告げず、つわり期もひとりで耐えて過ごしたという。

「高齢出産だし、初期流産のリスクは50%と医師に言われて。結婚前だったし、心配性の親にはもちろん誰にも言えなくて。打ち明けたのは安定期に入ってから。つわりのときは辛かったですね」

 頑張り屋のあさみさんは、体調のマイナートラブルを抱えながらも、長年続けてきた仕事を出産間近までしていた。

 地元の総合病院で立ち会い出産を希望したが、コロナ騒動で、立ち会いや妊産婦・胎児との面会や見舞いが禁止になった。

「予想はしていましたし、しかたがないことだけど。陣痛室で長い間たったひとりで痛みに耐えないといけないのは孤独でした。喉が渇いてペットボトルの水に手を伸ばすのもひと苦労。助産師はずっとついてくれるわけにもいかないし。破水して、長い陣痛の後、いきんだけど出てこなくて、最後は帝王切開になってやっとの思いで産みました。生まれた瞬間、可愛い! って思いました。親バカですね」

 その日を思い出してあさみさんは笑う。それでも夫を含め、誰一人お祝いにも来てもらえないのは寂しかったに違いない。部屋から窓の外を見つめて早く退院したいとばかり願っていた。

「入院中、赤ちゃんのお世話が全然うまくいかず、他のお母さんたちはもっと手際が良いのに、なんでできないんだろうって、ひっそり泣いてました。マタニティブルーズだったのかも」

 やがて帝王切開の傷も回復し、一人で会計を済ませ病院を出たところに、ようやく両親や夫の姿があった。しばらくは実家で過ごしながら、あさみさんの育児が始まった。

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