「産後うつ」の落とし穴…あなたは「苦しい」と言っていい

文=玉居子泰子
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竹内正人さん(撮影:玉居子泰子)

 前編で登場してくれた高井あさみさん(仮名・43歳)のように、コロナ禍で赤ちゃんを出産し、立ち会い出産も産後の面会もなく、気軽に子育て仲間を作ることも外出して気晴らしすることもできない親は、今、多いだろう。

 5%〜15%の母親が産後1年までの間にかかると言われている「産後うつ」。だがそのうち半数は妊娠前から始まっていることが知られ、「周産期うつ」としてケアの必要性が解かれている。

出産して「夢も希望もない」と泣いた…緊急事態宣言下で直面した産後うつ

 「産後うつ」という言葉が広く知られるようになった。「産後うつ」とは、出産後すぐから1年未満の間に、気分の落ち込みや、意欲・関心の薄れ、食欲低下や睡眠障…

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「産後うつ」の落とし穴…あなたは「苦しい」と言っていいの画像2 ウェジー 2020.11.03

 出産直後に起きる気分障害である「マタニティブルーズ」と「産後うつ」はどう違うのか。うつが疑われる場合、治療が必要なのか。家族や本人はどう行動すればいいのか。産科医の竹内正人医師に話を聞いた。

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竹内正人(たけうちまさと)
日本赤十字社葛飾赤十字産院の産科部長他、様々な医療機関で産科医として勤務した経歴を持ち、JICA母子保険専門家として途上国の医療協力にも従事。現在は、“Accept&Start”をテーマに、より優しい「生まれる」「生きる」をめざして、世界を旅しながら、地域、国、医療の枠をこえ、診察、講演、執筆、事業活動を行う行動派産科医。著書・監修書に『はじめてママの「からだとこころの悩み」お助けBOOK』(世界文化社)『マタニティ・ダイアリー』(海竜社)など多数。養子縁組支援や周産期グリーフケアにも力を入れている。

 

効率重視の世の中で、妊娠・出産に戸惑うのは当たり前

 竹内正人先生は、長年産科医として活動をしながら、発展途上国や日本の過疎地での周産期医療にも携わってきた。また流産や死産で子供を亡くした親を支えるグリーフケアの活動や国籍を超えた養子縁組の支援も行なっている。

 命の誕生や死をホリスティックに捉え、妊産婦に寄り添う竹内先生は、産後うつをどう見ているのか。

「産後うつを私たちは周産期うつと言っていて、産後だけでなく妊娠期からの発症も含めた病態として捉えています。昔から、世界中どの国にも、妊娠・産後に抑うつ状態になるお母さんは少なくない。そして、それは日本だけに限った話でもありません。

 妊娠・出産・育児を通して、女性はホルモンを含めた体の変化だけでなく、生活環境、キャリア、パートナーとの関係も以前とは異なる大きな変化を体験します。そんな中、お産への恐怖、わが子に障害があったらどうしようかという心配、コロナ禍の今は経済的な不安も多い中で子育てができるのかという問題、背負うこと抱えることが増えるのだから、不安にならない方がおかしい。妊娠・出産を素直に喜べない、っていう人は多いですよ」

 さらに、日本では妊産婦や赤ちゃんへの世間のまなざしが冷たいのも事実だ。電車で妊婦が優先席に座っていたら高齢者に怒られる、赤ちゃんを泣かせたら冷ややかな目で見られる、ベビーカーはたたまなければバスに乗れないなど、決して子どもを育てやすいとは言えない。

「私はよく海外に行きますが、特に途上国では妊婦・子どもには優しいものです。赤ちゃんが泣いていたらみんなほっとかないであやしてくれる。そういう雰囲気が日本にはあまりないですよね。女性の生き方やキャリアにも理解が高まっているようでいて、それでも妊娠すると昔ながらの母親としての役割を期待される。それはやっぱり辛いと思います」

 なんでも効率よく、テキパキと目標に向かって動く。そうした社会の中ではみ出してしまうのが妊産婦や赤ちゃん、子どもたちだ。母親になるとこれまでのキャリアをストップさせ、赤ちゃんと二人で育児に専念するべきという固定観念に縛られ、苦しくなる人もいるだろう。

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