「子どもなんて自然にできるだろ」不妊治療で夫がぶつかった壁

文=清田隆之
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(※本稿の初出は『yomyom vol.64』(新潮社)です)

【一般男性と呼ばれた男】

 恋バナ収集ユニット「桃山商事」の一員としてこれまで1200人以上の恋愛相談に耳を傾けてきた清田隆之さんが、「一般男性」にインタビューをし、彼らが何を感じ、どんなことを考えながら生きているのか、彼らの声にじっくり耳を傾けていく「yomyom」の連載。

 前編に続き、結婚3年目のアラサー男性、秋山公助さん(仮名)に、不妊治療の話を聞いた。

妊娠のリミット意識には恐ろしいほどの男女差がある

(※本稿の初出は『yomyom vol.64』(新潮社)です)【一般男性と呼ばれた男】 恋バナ収集ユニット「桃山商事」の一員としてこれまで120…

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「子どもなんて自然にできるだろ」不妊治療で夫がぶつかった壁の画像2 ウェジー 2020.10.24

苦しむ妻にかける言葉が見つからない

 子どもに関しては、正直「そのうち自然とできるだろう」って感じでした。奥さんも「マタニティドレスになると選択肢が狭くなるから、結婚式が終わるまでは避妊したい」と言ってたくらいで、まさか不妊治療することになるとは思ってもいなかった。すでに10年近いつき合いで、確かに夜の営み的なものは普通の新婚さんに比べれば少なかったと思いますが、奥さんが医療従事者ということもあり、「妊娠しやすいのはこの日」とかってリードしてくれていて、だから子どもは自然とできるんだろうなって。

 ただ、当初の僕は生理がなんのためにあるのかもわかっていないレベルで、子どもができやすい日を指定されても、仕事の疲れとかを理由に面倒くさがっていました。「え〜、セックスってそんな義務みたいにすることなの?」みたいな。そんな僕に彼女はいつもイライラしていて。僕としては「まだ若いんだし、そんなに焦らなくていいのでは?」って感じだったんですけど、「何もわかってない!」「ちゃんと調べてから物を言って」と怒られまして……。これ以上不機嫌になられたくないというのもあり、そこから自分でいろいろ調べるようになりました。

 妻が主導してくれていたのは、「タイミング法」という最もポピュラーな方法でした。基礎体温を測り、排卵の日を予測し、そこに合わせて性交を行う。卵子の寿命はおよそ1日、精子は2〜3日ということで、やはり「この日!」というタイミングが大事で、しかもチャンスは年に12回しかない。貴重な1回1回を僕は大した理由も知識もなく面倒くさがっていたわけですよね……。妻の苛立ちの背景にはそういう事情があったわけで、今思うと怒って当然なんですが、当時はそのことを全然わかっていなかった。

 この頃はまだ、自分の中に妊活という意識はありませんでした。実際にはタイミング法もその一種なんですが、不妊治療だとは思っていなかった。だから妻から人工授精を提案されたときは驚きました。正直ネガティブなイメージを抱いたくらいです。しかし、これもまた調べてみると、タイミング法を1年続けても妊娠しない場合は「不妊」と呼ばれるようで、次のステップとして人工授精がある。それを知り、決してネガティブなことではないんだなと思い直し、二人で病院へ行くことにしました。

 人工授精というのは、受精の場である「卵管膨大部」というところに十分な精子を注入する方法で、排卵のタイミングを狙って行います。その前に夫婦で検査を受け、精子にも卵子にも問題はないことがわかり、人工授精にトライすることになりました。とは言え、僕がやることと言えば、朝イチで精子を出し、指定のカップに入れて病院へ届けるというだけで……。普段から食事に気を配ったり基礎体温を測ったりしている奥さんに比べ、言ってもオナニーしてぴゅっと出すだけなんで、こんなんでいいのかなって。その中からエリートを選りすぐって、元気でイキのいいやつを膣内に注入し、結果を待ちます。

 これが毎月祈るような思いなんですが、なかなか妊娠判定に至らず……。人工授精は統計的に6回目以降に妊娠する確率が低くなるようで、4〜5回トライしても妊娠しない場合は次のステップである体外受精に進みます。回を重ねるごとに落ち込み、どんどん気持ちが不安定になっていく奥さんを見るのは本当につらいし、「残念だったね」とも「次があるよ」とも軽々しく言えず、励ましたところで「お前は出すだけじゃん」と思われるような気がして、かける言葉が見つからないんです。「子どもなんてそのうち自然にできるだろ」くらいに考えていた頃は、こういった状況になることを想像すらしていませんでした。

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