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私にはふたつ年の離れた姉がいます。専業主婦で、ひとりの可愛い女の子を子育て中です。私たちは昔からとても仲が良く、居住地が離れた今でも毎日のようにLINEでやりとりをしています。
しかし、考えが合わないなと思うことも度々あります。たとえば、姉は結婚至上主義者で、事実婚や同棲は絶対認めず、自民党と安倍総理が好きで、韓国と中国が嫌いなのです。
姉の考え方は“右派・保守寄り”と言えると思いますが、私は正直、「女性が保守になる」モチベーションがまったく理解できませんでした。「家族・性差」を強調して、女性を抑圧し、低い社会的地位にとどめて、無償のケア労働を負担させる思想を支持しても、女性自身にとってはデメリットしかないように感じていたからです。
しかし、姉のように主婦かつ保守の人は数多く見受けられるし、今世紀に入ってから、これまで男性主体で進められてきた保守運動においても、女性の姿が数多く見られるようになってきた、という事実もあります。
なぜ、女性たちは保守化・右傾化するのか。その疑問の答えを探して、『女性たちの保守運動 右傾化する日本のジェンダー』(鈴木彩加/人文書院)を読みました。
実家に帰ったら専業主婦の姉がDV被害者になっていた~女性の中のミソジニー
先日、旅行ついでに実家に数日滞在していたのですが、そこで衝撃的な話を聞かされることになりました。 端的に言うと、姉がDVの被害者になっていたのです…
男女差別をなくすことに反対する女性もいる
『女性たちの保守運動 右傾化する日本のジェンダー』では、2000年代以降に、女性の保守運動への参入が相次いでいることの意味が考察されています。また、保守運動には、憲法改正・軍備の強化・天皇制擁護・中国韓国への強硬姿勢・靖国神社公式参拝支持・性別役割分業の重視、家父長的家族の擁護、といった様々なテーマがあるなか、女性主導の保守運動に関しては男女共同参画と慰安婦問題が中心的テーマとなっていることの意味も検討されています。
本書によると、学者やジャーナリストなどの有識者ではない草の根の女性たちが、女性であることを積極的に打ち出して保守運動を担うようになったのは、2000年代以降の新しい現象だそう。これは、男女共同参画社会基本法の成立をはじめ、女性を取り巻く社会の状況に変化の兆しが見えてきた時期でもあります。
男女共同参画社会基本法は、男女差別をなくし、固定の役割にとらわれず、意欲に応じてあらゆる分野で活躍できる社会を目指すという理念に基づいた法律ですが、これに、反対する女性たちが出てきたのです。
興味深いのは、ERA(男女平等憲法修正条項)の批准に向けた取り組みに対し、反対する女性たちの運動が登場した、という類似した現象がアメリカでも見られるという点です。
男女共同参画社会基本法に反対した女性たちは主に主婦であると考えられているのですが、ではなぜ、主婦たちは男女共同参画に反対するのでしょうか?
不安だから男女共同参画に反対する
先行研究では、男女共同参画に対するバックラッシュ(反対する動き)を以下の3つのモデルで解説しています。
ひとつ目は、伝統的保守主義モデル。伝統的な(※1)性別役割にもとづいた家父長制型家族を理想とする人々のことで、自民党の支持団体である日本会議などがこのモデルに該当します。
(注1)稼ぎ手の夫と専業主婦の妻という家族形態は、近代になって出てきた家族形態である。しかし、伝統的家族と表現されることが多い。これを近代の伝統化と言う。
ふたつ目は、既得権益損失モデル。これは、家事・育児・介護といったケア責任を女性に割り当てることから利益を得ている人々が、既得権益を喪失することを恐れて反対しているというモデルです。
みっつ目は、不安によってバックラッシュへと接続していくと言うモデルであり、新しい保守主義とも呼ばれているものです。雇用の不安定化や新自由主政策の推進による社会保障の切り捨てなどに起因する不安から目をそらすために、男女行動参画やフェミニズムを仮想敵にしている、とするモデルです。
これまで、主婦が男女共同参画に反対する理由については、みっつ目のモデルで説明されることが多かったようです。しかし、この本はさらに一歩踏み込んでいます。
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