港区の公園女児遺棄事件、産み捨てた母親は誰にも相談できずか

文=柴田さとみ
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GettyImagesより

 東京都港区の公園で生後間もない女児の遺体が見つかった事件で、母親の北井小由里容疑者が逮捕された。北井容疑者は兵庫県から就職活動のため飛行機で東京に上京した際に産気づき、空港内のトイレで出産。その後、赤ちゃんの首を絞め殺害し、港区の公園に遺棄したという。

 なぜ北井容疑者は妊娠を周囲に相談しなかったのか、早産ではなく正期産だったのか、就職活動用の服装ができるほど体型に変化がないままだったのか、子の父親である男性はどうしているのかなど、報道では不明な点も多い。産後は母子ともに血まみれの状態であるはずだが、容疑者は誰にも気づかれずに空港から移動しているようだ。

 出産そのものが壮絶な痛みと苦痛を伴うものであるだけでなく、無事に産み落としてからも産婦には子宮の収縮していく痛み、裂けた股の傷、生理用ナプキンでは到底受け止めきれない量の悪露などがしばらく続く。ホルモンバランスも大きく崩れる。北井容疑者はそれらを抱えながら亡くなった赤ちゃんを埋めに行き、また電車と飛行機で帰宅し、就職活動を継続して仕事に就き、誰にも気づかれずおよそ一年を過ごしていたのだろうか。

 詳細な事情が不明にもかかわらず、ネット上では北井容疑者ひとりを責め立てる声が続出しており、11月4日の『スッキリ』(日本テレビ系)でも、議論が巻き起こった。

 『スッキリ』では、北井容疑者の祖母を取材。北井容疑者は二世帯で暮らしており、同居する祖母は北井容疑者を両親がきちんと手をかけて育てたと述べていた。しかし事情はわからないが北井容疑者は妊娠を家族には相談せず、2019年8〜9月ごろに神戸市の産婦人科を一人で受診。診察した医師によると、すでに中絶はできない時期だったという。そして同居家族が、北井容疑者の妊娠と出産に気づくこともなかった。

 阿部祐二リポーターは<僕の経験値だと、乳児幼児遺棄だと『孤立』っていう言葉が出てくる。だけど、おばあちゃんの話を総合すると、家庭環境からすると二世帯で、両親にも大事に育てられた彼女に孤立はない>と断言。MCの加藤浩次が<家族が多く住んでるから孤立していないとは限らない>と反論すると、阿部リポーターは<精神的には孤立していたことが供述から伺える>と言い直した。

 家族に可愛がられ厳しくしつけられたとしても、娘として親や祖父母には予期せぬ妊娠を相談できない・したくないという思いがあることは十分に想像できる。自分一人でなんとかしなければならないと考えたのだろう。だが、たとえ家族に相談できなくとも、せめて生まれた子どもを殺さずに安全な場所に預けることが可能だと知っていれば、事件は防げたかもしれない。

 コメンテーターとして出演した映画監督の河瀨直美氏は、産んでも育てられない母親、特別養子縁組についての取材経験から、社会の側の問題を提起する。

<実母である人たちは、表に出てこれない人たちというか。戸籍上は母親であることを抹消されているが、この人たちは存在していて母性もある。環境があれば育てたいがそれができない。何か助けになる制度や人がいなかったのかと残念でしかたがない。この人だけを責めるというのではなく、社会の関係性をもっと私たちが考えていかなくてはいけないと思う>

 競泳元日本代表の松田丈志選手も河瀨氏の意見に同意し、<北井容疑者に対する周りの無関心が見えてくる><社会として子どもたちをどう守っていくかを考えなくてはいけない><ちゃんと家庭の愛情のなかで育てるっていう取り組みをもっと進めていかないといけない>と、コメントした。

 しかし一方で、加藤浩次は<就職活動、自分のやりたいことを優先したい。そう考えると、(容疑者には人として)欠落している部分があるように思う>と発言。評論家の宮崎哲弥氏も、なぜ中絶可能な時期に病院に行かなかったのかとの疑問を呈した。

 宮崎哲弥氏<どういう過程で妊娠に至ったのか。まわりは本当に気づかなかったのか。なんでもうちょっと前に、中絶可能な時期に産婦人科に行かなかったのか、さまざまな疑問が湧いてくる>

 これに対しては河瀨氏は、<普段から生理の周期がバラバラで、生理がなくても妊娠してるか分からないことも(ある)>と女性の立場から反論。続けて、<父親は誰なのか。男性は逃げられる><産婦人科に行ってるわけだから、(おかしいと思ったなら)もう少し(医療機関が妊婦に)関わることはできないのかな>と、父親の責任についても触れた。

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