文房具というジャンルに、画期的な製品が出現しました。それは、デミタスというちいさなホッチキスから始まりました。
針(ステープル)を中で押すプッシャーというバネ仕掛けの機構を廃し、先端に磁石を仕込むことで小型化を実現した、世界最小クラスのホッチキス。
そのデミタスを中心に、定規が、メンディングテープが、メジャーが、カッターが、はさみが、液体のりが──ひとつのパッケージに集結します。
1984年、チームデミは誕生しました。デミタスのチームだから、チームデミ。
このかわいらしいパッケージの文房具セットは、2,800円という価格にも関わらず爆発的にヒットします。そしてその波はノベルティの世界へと伸びてゆき、チームデミは多くの企業に名入れされ、様々なひとの手に渡っていきました。その数、累計約650万個。
その後、ちいさな文房具をひとつにまとめたセット文具は他社からも雨後の筍のように発売され、製品群としても空前のヒットとなりました。
あれから36年。昭和末期に登場したあのチームデミが、まさかの令和版となって復活です。製品名はそのまま、チームデミ。パッケージデザインは深澤直人氏が担当しました。
本体ケースからチェックしていきましょう。以降、写真ではあえて1984年に発売されたものをいっしょに並べてあります。
オリジナルの表面は手当たりのいい柔らかな樹脂素材で、ざらざらしています。ふたと本体は本体と一体化した樹脂のヒンジでつながっています。中はウレタンが敷いてあり、各文房具を埋め込んで固定するようになっています。
対して令和版は、硬質でつるつるしています。実はヒンジはなく、強力なマグネットでふた側と本体側は「合体」しています。なので、令和版は2つに分離します。中も表面と同じ素材で各文房具を埋めるスペースが切ってあり、中には強力なネオジム磁石が埋め込まれています。各文房具は収納時、ぱちんという小気味よい音を立ててケースに填まります。振っても落ちてこないほど強力です。
入っている文房具を確認しましょう。位置はまったく同じです。上から時計回りに、ふた側に定規、メンディングテープ、メジャー、カッター。本体側にはさみ、液体のり、ホッチキス。
唯一異なるのは、オリジナルについていたチームデミのエンブレムが、令和版ではSIMカード交換ピンになっている部分です。裏面にはQRコードがあります。これでチームデミのブランドサイトに飛ぶことができます。どんな意味があるのでしょうか?──実は、今回はチームデミで消耗品となっているカッター、液体のり、メンディングテープのディスペンサーとテープセット、テープ2個組をブランドサイトで購入することができるのです。
各文房具についても見ていきましょう。
定規はオリジナルと同様、10センチの直定規です。前回あった1センチ刻みの穴(0位置の穴に画鋲を刺し、別の穴にペンを入れ回転することで簡易的なコンパスになる)は省かれ、代わりに目盛り側でない端にステンレス板を装着しています。これでカッターによる直線切りが可能になりました。また、ケースにあるネオジム磁石に引き寄せられる金属板としても機能します。オリジナルではこの定規の下に小物入れのふたがあったのですが、令和版では定規が小物入れのふた代わりとなります。
メンディングテープは、カッター機能が変わりました。オリジナルではカッターパーツと本体は分離できませんでしたが、令和版ではテープ交換が可能です。また、テープカッターは実はチームデミの2代目「チームデミ・プラクティス」で採用された「刃の下のくぼみを押すとテープが浮いて取り出しやすくなる」デザインを踏襲しています。このディスペンサーには本体と引き合うためのネオジム磁石が内蔵されていますが、ディスペンサー本体を別の鉄の面にくっつけることはできません。
メジャーはオリジナルでは1メートルでしたが、令和版では1.2メートルになっています。前回のものは1メートルのものを測る際にほぼ余裕がありませんでしたが、今回はかなり余裕を持って使用することができます。また引き出した際の抵抗が較べものにならないくらいに軽くなっています。メジャーは金属製なので、ケースとの合体は本体側のネオジム磁石で吸いつける仕様です。
カッターはオリジナルよりボディは小さく、ステンレス刃は大型化しました。2段階に前進し、ボディのななめ部分を紙面に当てることにより1枚切りの機能を有する部分もオリジナル通りです。カッターも内臓刃をネオジム磁石で吸いつけることでケースに固定します。令和版では、ケースに納まっている状態のカッター上部を軽く押すことでカッター下部がケースから浮いて取り出しやすくなっています。取り出しの際には、ケースにあるちいさな三角マークを見つけてみてください。
はさみはよく似ていますが、オリジナルにない特徴が令和版にはあります。それは、同社のはさみ「フィットカットカーブ」シリーズと同様の「ベルヌーイカーブ刃」を採用した点です。ベルヌーイカーブ刃は刃の根元から先端までが一定の角度を保つようカーブしており、切り始めから切り終わりまで力を均等に掛けることができるので軽く快適に切り進むことができます。はさみも本体は金属ですから、それで本体側のネオジム磁石に吸着させています。
液体のりは形状が変わりました。オリジナルではふたは左にして収納していましたが、令和版ではふたを右にします。このふたにネオジム磁石が仕込んであります。このふたのネオジム磁石は強力で、他の鉄の面につけることができます。
ホッチキスがもっとも形状変更の大きい製品です。令和版のホッチキスはデミタスの復刻版ではなく、一般的なプッシャー機構を持った小型ホッチキスです。デミタスのような強烈な個性はありませんが、小型ホッチキスとしては標準的な性能を有しています。ホッチキスのメカ部分は金属ですので、本体側のネオジム磁石に吸着します。
SIMピン以外の各文房具に、PLUSのロゴが一切ないのに気づかれましたでしょうか。定規にもセンチ表示を入れないなど、徹底したこだわりを感じます。オリジナルでは、メジャーを引き出すと先端に製造メーカーだったTAJIMAのロゴが入っていましたが、今回はそういうことも一切ありません。
よく似ていて、構成もほぼ同じで、ケースサイズもだいたいいっしょ。ということで、令和版はオリジナルを完全に踏襲しているように見えます。ただ、決定的に違う点がひとつだけあります。
重量です。オリジナルのチームデミは、わたしの手許にあるものを測ると136グラム。対して令和版のカタログスペックは260グラム。倍ありますので、かなりずっしりと感じます。しかもヒンジで上下がつながっていないので、いかなネオジム磁石といえども、鞄の中で揺らされたり落下させたりすれば分離の可能性は否定できません。
やはり本製品は、持ち歩きする文房具セットなのではなく、机上に設置する文房具セットなのではないでしょうか。
令和版の価格は6,000円(税抜)。36年で倍以上になりましたが、1984年の2,800円もかなりの値段でした。あの頃わたしはオリジナルを買うことが出来ず、のちに名入れされた製品を景品として入手しました。そういう意味では今も昔も高嶺の花かもしれませんが、ギフトなどの候補には最適な製品だと思います。
また昨今、テレワーク等で自宅での仕事を余儀なくされている方も多いと思います。手許に文房具が揃っていない、できれば手が届く範囲におしゃれにコンパクトにまとめたい、という方にもお薦めできる製品です。
(他故壁氏)