投票~民主主義の根幹
今回の大統領選挙でその活動が注目された民主党の政治家は、女性やマイノリティが非常に多く、加えて人数自体も多い。先のパロディ映画のタイトルには「Americans Assemble」と書き添えられている。「アメリカ人は集結する(皆で力を合わせる)」という意味だ。
共和党側はトランプが独裁・独走を繰り広げたことにより、トランプへの追従によって保身を図る政治家、もしくはトランプを利用して党の拡張を図る政治家のみが表立って支援した。よってこのパロティ映画をトランプを主人公に作り変えようにも、味方の人数が揃わないことになる。
そもそもトランプ/共和党は、マイノリティや低所得者に投票をさせない方策に奔走した。今回の郵便投票妨害以外に、以前からの策としてマイノリティ地区では投票所の数を極端に減らすといったことなどを続けている。そうした地区に住む有権者は離れた投票所まで時間をかけて出向き、何時間も並ばなければならない。今回は最長11時間の報道もあった。
一方、今回のバイデン/民主党側の選挙戦略は、バイデンとカマラ自身のキャンペーンもさることながら、とにもかくにも「VOTE(投票)」だった。有り体に言えば、バイデンにオバマほどの訴求力が、特に黒人有権者や若者に対してはなかった。よってトランプを駆逐するための策として投票行為自体を粘り強く訴えたのだった。
民主主義への最も基本的な参加行為である投票を妨害する策と、広く訴える策が攻防した。結果として米国大統領戦史上最多の1億5,000万人の投票がなされた。
ちなみにバイデンの選挙キャンペーンを見事に仕切った選対委員長ジェン・オマーリー・ディロンも女性であった。
性別と、肌色の濃淡
カマラ・ハリスは大統領予備選では敗れたものの、女性として初めて副大統領の任に就き、ホワイトハウス入りを決めた。
4年前の大統領選では当選確実と信じられていたヒラリー・クリントンがよもやの落選となり、全米を驚愕させた。ヒラリーの敗戦はアメリカに厳然と横たわる女性蔑視の証明となった。その代償としてアメリカは4年間、ミソジニスト、レイシストの大統領を抱え、国内分断、他国からの乖離という大きな危機を自ら作り出し、さらには凄まじいコロナ禍に現在も見舞われている。
それもありハリスが副大統領となった。だが、白人男性大統領に社会情勢を考量した上で選ばれての地位だ。アメリカはまだ、こうした「途中段階」にあるのだと言える。つまり、ハリスにはバイデンと共に行うアメリカ再建の他に、これからの4年間で成し遂げなければならない大きな仕事がある。女性にも大統領の資質と能力があると証明しなければならないのだ。2024年にバイデンが続投しない場合、ハリスも含め、女性が出馬し、性別ではなく、能力によって選ばれる社会にしなければならない。
同時にハリスが人種ミックスであることも、アメリカが人種問題における「途中段階」にあると示している。ハリス以前、そもそもはオバマ大統領当選時からの問題だ。二人はそれぞれ白人、インド人とのミックスであり、ライトスキンと呼ばれる肌の色の薄い黒人だ。だからこそ非黒人の有権者にも広く受け入れられた。人種社会アメリカにおいて、人が理性によって理解する人種(の平等)と、視覚から受ける直感的な人種(の違い)には、まだ大きな隔たりがあるのである。
この件は、当選があたかも本人の能力によるものではないと受け取られる可能性があり、従ってアメリカのメディアも慎重になる繊細な問題だが、肌の色の濃淡による扱いの違いはアメリカの一般社会においても確実にある。だからこそオバマやハリスの能力が万人に認められると、時間はかかるにしても徐々にすべての黒人、黒人以外の肌色の濃いマイノリティにも道が開けていく。
その効果はオバマの初戦時に始まっており、史上初の黒人大統領誕生の瞬間を分析、リポートするためにメディアは多数のマイノリティ・ジャーナリストやコメンテイターを登用した。今回も複雑かつ長期に渡った選挙戦を冷静に分析、報道したCNNの若い政治キャスターが注目を集めている。アビー・フィリップス。ダークスキンの黒人女性ジャーナリストである。アメリカは変わりつつある。
(堂本かおる)
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