
『ウェルネス/アンウェルネス -その真偽を問う-』より
私の思うスピリチュアルや宗教の怖いところのひとつが、「性暴力に利用されやすい」という点です。過去にはドイツのカトリック聖職者1670人が3677人もの未成年者に何らかの性的暴行を加えていたというニュースがあり、つい最近では聖路加国際病院で「スピリチュアルケア」担当の病院専任聖職者が、女性患者に性的マッサージを強要するといった事件がありましたね。
▼聖路加国際病院で男性牧師から性被害、元患者の女性が提訴 「聖職者に対する信頼を逆手に取った」(弁護士ドットコムニュース)
「除霊」や「ヒーリング」と称したレイプ事件も、巷では星の数でしょう。Netflixで配信中の健康産業の闇を追うドキュメンタリー『ウェルネス/アンウェルネス -その真偽を問う-』第2話「タントラ」でも、スピリチュアルと性暴力に関するエピソードが登場していました。
タントラとは西暦500年ころの古代インドで発生した修業のひとつですが、番組で取り上げられているのはここ100年でアジアから欧米に流れた「ネオタントラ」のこと。性的なエネルギーを高めるという側面が独り歩きし「タントラセックス」「タントラヨガ」などさまざまな形に枝分かれしている模様。日本のスピシーンでもすでに定着化しつつあり、当連載でも過去にとりあげた「タントリックヒーリング」はまさにそれ。ネオタントラとオキシトシン信仰が合体したと思われる「オーガズミックバーズ」もお仲間と考えていいでしょう。
アメリカのマルチ系アロマ業界に、金のニオイ&自己顕示欲が充満している
ついにNetflixに手を出してしまいました。詰ん読(&動画)で山脈が発生しそうな状況なのに、これ以上どうすんだ! と常々思っていたのですが、…
番組では「アガマ」というタントリックセックスの6週間集中講座合宿へ参加した女性が「性的虐待を受けた」と訴えています。いかにもヒッピーといった出で立ちの、伸びやかな美しい女性ですので、体と向き合い人生を謳歌するヒントを得ようと思ったのかも。ところが教祖がヨーニマッサージ(性器のマッサージ)を申し出てきたあげく、集団セックスを強要されたというのです。それを拒否すると「努力を惜しむなら悟りは開けない」と激しく非難され続け、結局折れて参加した……なる体験談でした。
隠し録りされた教祖の鳥肌トークも公開されています。「私は性の治療師。女性の不感症を治す」「深く挿入されたときに子宮が痛むんだね? 私の5回の治療であなたのヨーニを開花させよう」。インチキヒーラーを去勢する法律マダー?
言葉巧みに信者を惑わす
これに対し、セラピスト兼カルト研究家というレイチェルさんは「教祖は言葉巧み。体の部分を外国語で言われたら、特別な技巧だと思ってしまう」と解説していますが、ああ日本でも「ヨニ」「ホト」「まぐわい」など、「古語」を取り入れていまっせ~とレイチェルさんにご連絡したい。「強姦を性の癒し、性虐待を性の悟りと言い換えます」。あるあるぅ……。
個人で講座を行う人たちも登場。パワスポとして知られるメキシコの小さな村に住む女性を追うパートでは、対面での施術やグループワーク、ネット講座などさまざまなスタイルで精力的にタントラを教えている光景が映し出されます。ZOOM会議のようなシステムで、画面の向こうの参加者たちに向かい「意識を胸、性器に集中させて~」「私の体を通じて皆を感じている、すごいエネルギーです!」とたたみかけている光景は「なんか見た」感すごい。スタジオでのレッスン風景は、女性たちがそろって「あぁ~!」と喘ぎ声を出す、異空間。これはもうパワスポでなく、珍スポと呼んでいいですか?
さて、ツッコみたいのはそんなオモシロ風景ではなく、講師の語る「安易な指導」です。「エネルギーが流れることで、体中のごみを押し流す浄化作用が起きる」とか「性的絶頂の感覚を使ってトラウマを治療している」とか「快感は薬効。目的は健康」とか。「ザ・無責任」極まりないんですが~! 何もかもが、安易すぎる。
こういった「ネオタントラ」を総括して説明するのは、比較宗教学を専門とするホワイト教授なる人物。
・タントラ信仰は「人間を食べる」と恐れられていた鬼人信仰から生まれたもの。そこから魔力を持つ女性たちへの畏敬となった。男性修業者が女性に身を捧げ「7回食われて超人になる」という修業があり、性魔術と鬼人信仰が融合している。超人的な存在となり、神に近づくのが目的。
・ところが、昨今欧米で広まっている「ネオタントラ」は、もともとの教えを軽視しまくっている。それはキリスト教でいうなら、マリア様を性的な商売に利用するかのよう。
・健康と何らかの悟りを目指すため、ニューエイジが性愛教書にハタヨガを組み合わせて「ネオタントラ」となり、今やネットビジネスとなっている。
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