「嫌よ嫌よも好きのうち」を死語にして、「No means NO」を浸透させるために

文=原宿なつき
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GettyImagesより

 10月2日は、「国際非暴力デー」です。です、と言いつつ、私は数日前に初めてこの日の存在を知りました。非暴力の哲学を貫いたガンジーの誕生日を記念して設立された記念日だそうです。

 この日、東京・表参道にて、「わたしとあなたを愛すること」と題し、性暴力や性被害について語るイベントが開催されました。その模様をレポートします。

性暴力について語るmimosas(ミモザ)

 イベントの主催は、2020年8月に設立されたメディア、mimosas(ミモザ)です。mimosasの発起人のひとりである、みたらし加奈さんは、wezzy連載陣の一人でもあります。

 四部構成のイベントの第一部は、「セックスの時の、YES・NOどうやって伝えてる?」という性的同意についてのトーク(オンライン)。第二部から第四部までは表参道の会場とオンライン、どちらかを選べる形式でした。

 今回は、第二部を中心に、当日の様子をご紹介していきます。

 まず会場に足を踏み入れて最初に驚いたのは、その華やかで洗練された雰囲気です。これまでメディアの表現の仕方などから、性暴力や性被害というものは暗くウェットなイメージで覆われてきました。これをもっと語りやすいカルチャーに変えていきたい! という主催者の方々の意気込みをひしひしと感じました。

嫌なはずなのに明るくネタとして話しちゃう。「マニックディフェンス」とは?

 第二部のトークは、mimosasの発起人であるメディアプロデューサーの疋田万理さん、ジャーナリストの伊藤詩織さん、臨床心理士のみたらし加奈さんによる「私たちがつくりたい世界 mimosasの想い」と題したもの。

 疋田さんとみたらしさん、それぞれのサバイバーとしての経験や、友人やフォロワーの方から相談された経験などが積み重なって、「性被害にあった時にどうしていいかわからない。被害を受けて傷ついているときに正しい情報に手軽にアクセスすることが難しい。自分を責めてしまう人も多い」といった現状を変えるために設立されたのがmimosas(ミモザ)なのです。

 一時間のトークタイムでしたが、非常に内容が濃く、印象に残っているフレーズがたくさんありました。私が特に気になったトピックは4つ。

 ひとつ目は、みたらしさんの発言にあった、心理学的防衛反応である「マニック・ディフェンス」。「マニック・ディフェンス」とは、ショッキングなことが起こったとき、自分が傷ついていることを認めず、明るく振る舞ったり、面白おかしく話してしまうような心理的メカニズムで、人間の防衛機制のひとつだそうです。知らなかったけれど、めちゃくちゃ腑に落ちる! 自身に覚えがありすぎました。私は女子校に通っていましたが、痴漢被害について語るとき、笑いながら話す女子が少なくなかったのです。

 みたらしさんは著書『マインドトーク あなたと私の心の話』(ハガツサブックス)において、自身の経験を踏まえて、マニック・ディフェンスをこう説明しています。

<自分に「不幸」が起こった時、私は決まってそれを「ネタ」として捉えようとした。どんなに辛いことがあったとしても、友人には笑いながら話した。どんな苦しみも、楽しくハッピーに面白く片付けようとした。苦しければ苦しいほど、面白かった。明るい話にすることでしか、私は「痛み」を伝えられなかったのかもしれない。それは実は「マニック・ディフェンス(躁的防衛)」といって、(略)「防衛機制」のひとつでもある。しかし、笑って受け流していたストレスが積もりに積もった時、それは「体」に現れ始めたのだった>(P.143)

 みたらしさんは体が発するSOSに耳を傾け、自分の心と向き合っていくことになるのですが、こうした言葉や知識を持たない場合、「あのとき、自分は明るく話していたし、大したことではないと思っている」と自分の傷ついた気持ちを何年も無視してしまうでしょう。そして気づかぬうちに体に不調が現れてしまうことも、あるのではないでしょうか。

 「ショッキングな出来事に遭遇したとき、瞬時に自分が選んだ行動や反応が、自分の心とは乖離したものなのかもしれない」。この知識は、自分の心と向き合ううえで大切なものです。同時に、他者の相談を聞くうえでも同様ですね。

サバイバル方法は人によって違う。言わないということも、サバイバルの方法

 ふたつ目は、伊藤さんによる「サバイバル方法は人によって違う」という言葉です。

 伊藤さんは性被害にあったとき、警察に届けるべきか届けずにおくべきかを迷ったそうです。しかし「ここで真実を伝えなければ、自分自身が壊れてしまうという想い」から、被害を届け出ること・声を上げることを決意しました。

 伊藤さんといえば今年9月、TIME誌の「世界でもっとも影響力のある100人」に選ばれたことでも話題になりました。社会学者の上野千鶴子さんも「彼女は性被害を勇敢にも告発することで、日本人女性たちに変化をもたらしました」と評価していましたが、彼女が性被害を堂々と告発したことが、声を上げられなかった幾人ものサバイバーたちを勇気付けたことは間違いないでしょう。

 その伊藤さんによる、「(性被害を)サバイバルする方法は人によって違う。言わないということだって、その人なりのサバイバルの方法」「(周囲の人たちは、被害者が)日常を続けられるように、どのようにサポートをするのかが大切」という言葉には考えさせられました。

 私自身、友人・知人から性被害について相談されたとき、告発することを前提として話を進めがちで、本人が「黙っている」と決断したときに、イライラしてしまったこともあったのです。けれどそれぞれのサバイバルの方法を尊重しなければ、自分も被害者を傷つける側になりかねない、と自戒を新たにしました。

同性間の被害・男性への被害の軽視

 みっつ目は、性被害・性犯罪における多様性の視点が抜け落ちている、という指摘です。

 みたらしさんは「統計上は、圧倒的に女性の被害者が多いけれど、男性の被害もある。男性から男性、女性から女性への加害もある。その場合、妊娠する可能性がないことで被害を軽視されてしまう現状もある上に、そもそもカミングアウトをしなければ被害を告発できないため、告発するハードルも高い」と指摘。

 伊藤さんは、2015年時点では被害者が男性であったら法律上レイプ被害にはならなかったことを例に挙げ、性被害において「男性から女性」のみが問題視されることの弊害を指摘しました。

 この点については、被害を透明化することなく問題視し続けること、そして特定の属性の人にだけ被害の告発に対するハードルが極端に高い現状を変えていかなければなりません。

「No means NO」だから、「YES」もはっきり言おう

 最後は、疋田さんが語った言葉です。

 疋田さんは「No means NO」や性的同意について2025年までに「常識」にしていきたい、と言いました。まだまだこの社会に「嫌よ嫌よも好きのうち」とか「女性ははっきりと性欲を表明しない方がいい」といった文化が残っています。その文化を変えることが、mimosasの使命のひとつだと言います。

 そのためには、「YESもはっきり言う」こと。「No means NO」を浸透させ、はっきりした性的同意をとることが常識だという文化にするためには、「YES」をしっかり伝えることも大切なのです。

 これに関しては100%同感で、私自身も「性欲や性欲の表明に関する男女間のダブスタを解消すること」が、性被害を減少させるマスト条件だと感じています。

 mimosasは明確に、性被害を語りにくく、被害者が自責しやすく、性的同意がとりにくい、現在の文化を変えていこうとしています。

 これはつまり、レイプカルチャー(レイプは起こり得るものだから、加害者にやめさせるのではなく、被害者に自衛しろと迫る文化のこと)を撲滅する取り組みでもあります。

 私もレイプカルチャーにうんざりしているひとりの人間として、大きな志を持ったmimosas(ミモザ)の挑戦を応援したい、そう思いました。

他人のため、だから勇気を持てることもある

 第三部、メイクアップアーティストで僧侶の西村宏堂さんとみたらし加奈さんによる、「生きづらさ」をテーマにしたトークでも印象深い言葉がありました。

 西村さんが僧侶としての修行時代に体験したエピソードです。一緒に修行していた僧侶から投げつけられた不躾な「てめえ、カマかよ(オカマかよ、の意味)」という罵倒に対して、勇気を出して「そうだよ」と言ってみた、というのです。

 西村さんは「何か言わなければ何も変わらないし、自分が堂々としていれば、これから同じようにいじめられる人が少なくなるのではないか」と考えての行動だったそうです。

「自分のためだけだったら難しかった。自分のためでもあり、知らない次の世代の人のため、と思えたから勇気を出せた」

 これは性的同意をはっきり表明することや、性被害の告発に関しても同じことが言えますよね。

No means Noが当たり前になる世界、被害者が責められることのない世界は近づいている

 トーク終了後、会場内に展示されているメキシコのフェミニスト・アーティスト、モニカ・メイヤーさんによる「ザ クロースライン」という参加型アートを拝見しました。「ザ クロースライン」は、参加者が日常生活で感じる抑圧やハラスメントなどを色紙に書き、物干しロープ(clothesline)に展示したアートです。

 物干し竿につるされたカラフルな色紙には、「セクハラ・性暴力を受けた自分(家族・知人)にどんな言葉をかけたいか」に対する切実な言葉が寄せられていました。「あなたは何も悪くない。なにもできなかったあなたは、悪くないのよ。だれかに話しても、いいんだよ」「あれは性的同意なんかじゃなかった、と5年以上経った今、伝えようと思う。自分を責めていたあの時の私に、あなたは悪くないと伝えようと思う」「生きていてくれてありがとう」。

 たくさんの色紙に書かれた「あなたは悪くない」という言葉は、性被害において、自分を責める人がこれほど多いことを如実に表しています。

 mimosasは現在、弁護士や医師・臨床心理士などの専門家による正しい情報発信や、ロールモデルとなるサバイバーたちの声を掲載したメディア運営を中心としていますが、今後は、映像での情報発信や、子どもたちを被害から守るための子ども向けワークショップなど、メディア運営の枠にとらわれない幅広い活動を予定しているそうです。

 mimosasが目指す「No means No」が当たり前になる世界、被害者が責められることのない世界の実現は、遠いようで、確実に近づいてきている。そう感じられる1日でした。

(原宿なつき)

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