アツギ、タカラトミー、サントリー、キリン…炎上広告はどうすれば防げたのか

文=和久井香菜子
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炎上を予感しても、意見できないかもしれない?

――こうした不毛な炎上の再発はどうすれば防止できるのでしょうか。というのも、もし私が社内の担当者だったとして、たとえばラブタイツキャンペーンを「何だかおかしい」と思っても、声を上げられたかどうかわかりません。嫌悪感の正体を言語化できなかったり、周囲に同じように不快に思う人がいなかったら「これはやめたほうがいい」と言えるか自信がありません。意思決定層が納得しているのに、意見を言うこと自体も不安だと思います。

【治部】確かに、社内で「おかしい」「これは炎上するんじゃないか」と思って進言しても、聞いてもらえない、部署の違いやポジションの上下の問題で言い出しにくいということはあると思います。ラブタイツを批判している人でも、自分の勤務する会社が同じようなことをしたときに、声をあげて止められない可能性はあります。

 また、差別発言に関しては男性だけではなく、女性もする人がいます。男性に対して「背が低い」とか「デブ」とか、同じことを男性が女性に言ったら大問題になりそうなことなのに、その場に男性がいないと、平気で言う人がいて驚きます。

 ですから、場に多様性を保つことはとても大切です。炎上を起こしたくないのであれば、社内の風通しを良くして、複数の違う意見を「聞く」機会をきちんと設けた上で検討することではないでしょうか。

ーーなるほど。一方で、Twitterなどの不毛な議論についても、いい加減に減らしていきたいですよね。

【治部】SNSの大きな問題は、ユーザーが「人の話を聞かずにキレてしまう」という振る舞いをしがちだということです。たとえば、家族や友達が「頭が痛い」「お腹が痛い」と言っていたら「どうしたの?」と聞くのではないでしょうか。しかしSNSでは、「この絵はいやだ」という意見に対して、「どうしていやなのか」を聞かずに逆ギレしてしまう。会話になっていません。

 攻撃的な文面も、問題です。同じことを違う言い方にすれば問題にならないことも多いので、それぞれ相手を貶めたり挑発したりする言い方を変えるだけでも、不毛な戦いに発展せずに済むかもしれません。

ーー最後に、治部さんが「いいな」と思う広告を教えてください。

【治部】最近「いいな」と思ったものがいくつかあります。

 一つはクレラップの「僕は手伝わない」という動画です。タイトルだけだと、「また何もしない夫の話か!」と思うのですが、家事も育児も当たり前にやるよ、だから「手伝う」んじゃない、という内容です。これはちゃんと社内の共働き現役世代にヒアリングして作ったそうで、家庭のありふれた日常がポジティブに描かれていていいですね。

 二つめは、丸美屋の釜めしのCMです。木村佳乃さんが釜めしの歴史を紹介するといった流れで、昭和のキッチンで忙しく割烹着を着たお母さんが家事をしている様子が流れます。そして現代になり、今は一人暮らしの人も、男性も、女性も、色んな人が家事をするようになりましたというのがサラリと紹介されています。短いけれどインパクトがあって、女優さんを起用したCMでもこういう表現が可能だといういい例でした。

 三つめは、汐留で見かけた婚活アプリ「Pairs」の掲示広告です。「ふたりのじつは! がふたりをつなげる」というもので、見た目は今どきのカップルが出てくるのですが、「女性が(実は)食べるのが好き・男性が(実は)料理を作るのが好き」というように、スタンダードとされてきた性的役割分担を逆転させています。アプリの宣伝をしつつ、カップルの多様なあり方を提案していました。これも男女カップルのみではあるのですが。

ーーどれも現在の時代性を理解し、よく考えて作られたのだということがわかりますね。ありがとうございました。

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 広告炎上があると、必ず思い出すことがある。90年代前後に放送されていた、三洋電機のコードレスフォンのCMのことだ。

 所ジョージさんが簀巻きにされて床に転がっており、手を使わなくても声だけで通話ができるという商品の便利さを訴える内容のCMだった。当時、私は学生だったのだが、このCMが「手がない障害を想起させる」というクレームを受けて放送中止になったという話を聞いて、「自分は別に差別的だとは思わないし、障害者を揶揄したとも思わない。なぜ中止にする必要があったのか」と父に尋ねた。すると父はこう答えたのだ。

「どんなことをいやだと思うかは、人それぞれ。当事者がいやだと思うのなら、否定する権利は私たちにはない。それがどんな少数意見であろうとも、尊重されなければいけない」

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