20以上の自治体で「“嫁”は避けるべき表現」と明示している
まず前提として、靴下屋のツイートが物議を醸したのは、企業の公式Twitterでの発言であったためだ。Twitterでは「自分は旦那や嫁という表現が嫌ではない」といった趣旨のツイートを見かけるが、今回の議論は個々人の呼び方に言及するものではない。『グッとラック!』のインタビューに応じた井田さんも<お互いの了解のもとで呼び合っている名前というものは勝手にしてください>と話している。
公の場で適切かという視点においては、番組によると、20以上の自治体が「男女表現ガイドライン」にて“嫁”は避けるべき表現としている。いくつかの自治体の男女表現ガイドラインを確認したところ、ガイドライン自体は自治体職員向けに作られたものであるようだが、行政の発信として望ましくない言葉は、企業としての発信でも使わない方が無難だろう。
また、千葉県茂原市の「男女共同参画の視点からの表現ガイドライン」には次のように書かれている。
<内容と無関係な女性の姿態や身体の一部の強調、「美人○○」といった表現など、個性・能力に無関係な、女性の容姿を強調した表現を用いることは、女性を「性的対象物」や「飾り物」として扱っていると批判されても仕方ありません>
<写真やイラストだけで、一目で意図が伝わる表現になっていますか?>
これらはこれまでの企業炎上で何度も指摘されてきたことだ。「ジェンダー関連で何が炎上するかわからない」と感じている企業広報は、参考にしてみるといいのではないか。
『グッとラック!』では差別意識の有無についても論点になっていたが、「差別意識がないなら問題ない」とは言えないだろう。例えば茂原市の同ガイドラインには、望ましくない表現として「ホモ・レズ・あっち系」といった言葉が載っている。これらの言葉を差別意識を持たずに使っている人もいるのかもしれないが、たとえ差別意識がなくても当事者を傷つける言葉である。
また「才色兼備」や「職場の華」も、「誉めているのに何が悪いのか」と思う人もいるかもしれないが、ガイドラインには<女性に対する表現のみで男性にはない表現の場合、女性に対する蔑視や偏見が含まれている場合があります>としっかり理由が明記されている。
伊沢拓司氏の<差別と感じる方がいることは知っておくべきこと>と話していたのも印象的だ。というのも、まだLGBTQという言葉が世の中に浸透していなかった頃、筆者は当事者から「彼女/彼氏と異性愛者であることを前提に話が進められるのが嫌だ。“パートナー”だと話しやすい」という話を聞き、はっとさせられた。
私たちが生活している中で見えていない・気づいていない差別はいくつもあるだろう。まずは「この言い回しは誰かを傷つけることがある」と知ることから始めてもいい。
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