「非モテ男性」を救うのは誰か 「本来女性によってケアされるべきなのに、されない」

文=原宿なつき

暮らし・美容 2020.11.15 10:00

GettyImagesより

 最近、もはや「恋愛至上主義は古い」という価値観が主流になってきているように感じています。若い子から「ちょっと上の世代の人って、彼氏・彼女いるの? とかすぐ聞いてくる」という苦情がしばしば聞こえてくるのですが、中高年にとって当たり前だった「みんな恋愛しているし、したいはず」「草食系なんてけしからん」という恋愛観は解体され、恋愛に夢中な若者もいれば、そうでない若者もいるのが“当たり前”になりつつあります。

 しかし同時に、「モテないこと」が自分にとって非常に切実な問題だと感じている人もいます。

「女にモテない→加害」という奇妙で自然な流れ

 2014年にアメリカのカリフォルニア州アイラ・ヴィスタで起こった銃乱射事件を覚えているでしょうか。犯人は当時22歳の男性エリオット・ロジャー。ロジャーは事前に犯行予告となる声明文を両親や教師など34人にあててメールしており、それによれば犯行の動機は「すべては女の子の誰ひとりとして僕に振り向いてくれなかったせいです。他の男たちには優しさもセックスも愛情も与えたのに、僕には何一つくれなかった」というものでした。

 ロジャーは、「甘やかされて調子こいてるブロンドのヤリマン女を一人残らずぶっ殺す」ために、彼が考える一番ホットなソロリティハウス(限られたメンバーだけが所属できる女子学生の社交グループ)に侵入を企て、死亡者7人、負傷者14人を出したのち、自殺します。

 2018年にはカナダで、インセル(Involuntary celibate:不本意な禁欲者の略。不本意ながら恋人がおらず禁欲を強いられているのは女のせいだ、と考える人のこと)を名乗る男性が、女性や性的に魅力ある男性を標的にトラックで歩行者に突っ込み10人が死亡する事件が起きています。

 一体なぜ、「モテない→女を憎む・女に加害したいと思う」となるのでしょうか。この思考回路を理解するヒントを知りたくて、『モテないけど生きてます 苦悩する男たちの当事者研究』(青弓社)を手にとりました。

女神を求める「非モテ男性」の心理

『モテないけど生きてます 苦悩する男たちの当事者研究』(青弓社)

 『モテないけど生きてます 苦悩する男たちの当事者研究』は「ぼくらの非モテ研究会」によって書かれたものです。「ぼくらの非モテ研究会」とは、女性との関係がうまくいかず苦しんだ経験のある西井開氏が、<モテない男性が蔑まれ、そしてときに恨みと暴力に走る現状に歯がゆさを感じ、「非モテ」に苦しむ男性たちが自分たちに起きていることを主体的に探り、苦しみをケアしあう回路を作ることはできないか>(P.4)という問題意識から発足した自称非モテ男性たちの語り合いの場、当事者研究の場です。

 当事者たちの語り、自己分析が収録されているのですが、それらは驚くほど率直で、ときに痛々しく、直視するのが難しいほどでした。

 非モテ研では、女性と関わることが少ない環境のなかに突如現れ、声をかけてくれたり優しくしてくれたりする女性を神聖視してしまう現象を「女神」または「女神化」と呼び、相手に精神的ケアを過剰に期待してしまう可能性がある、と分析。また、非モテ男性は恋人ができることで「一発逆転」でき、一人前の男として扱われるのではないかと期待してしまうことなどにも言及しています。

 非モテ男性の苦しみの一因は、「本来女性によってケアされるべきなのに、されない」「一人前の男性なら女性の恋人くらいいるはずなのに、自分にはできない」という点にあるようです。

 メンバーのひとりであるリュウさんは、<恋愛によってあらゆる生きづらさを解消しようとする傾向、ジェンダーロール(性役割)が影響した、女性によってケアや承認、救済されたいという願望もありました>(P.115)といった語りを通して、「非モテ」が単なるモテの問題ではなく、性役割に起因する苦しみであることを示唆しています。このように、非モテを入り口にして語り合い、考えることで、男性の生きづらさの解像度を上げることができるのも非モテ研の意義のひとつでしょう。

 ところで、なぜ「本来女性によってケアされるべき」「一人前の男性なら女性の恋人くらいいるはず」と考えてしまうのでしょうか?

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原宿なつき

2020.11.15 10:00

関西出身の文化系ライター。Wezzyでは、フェミニズムやジェンダー関連の書籍を紹介するコラムを書いていきます。空気のように存在している女性蔑視の思想・言動・社会の構造に気がつき、「NO」と言える人を増やしたい。
harajyukunatuki@gmail.com

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