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男性にのしかかる大黒柱プレッシャーって、キツイですよね。妻子を養えるほどの収入を確保することを死ぬまで期待されることを、つらいと思うことが一瞬もない男性は、いないのではないでしょうか。
実際は、数十年前から専業主婦家庭よりも共働き家庭の数は上回っているので、「男性ひとりの収入で家族を養う」スタイルの家庭は少なくなってきてはいるわけですが、まだまだ男性に非現実的な経済力を期待する風潮(もしくは期待されていなくても内面化している人)は健在だと思います。
「男なら稼げ」大黒柱プレッシャーが男性を追い詰める
この20年で日本人の平均年収は100万円近く低下しましたが、税金は上がり続けています。つまり、経済的に苦しい状況に置かれている人は増えてきているのです。それにも関わらず“男というもの”は、終身雇用当たり前かつ右肩上がり時代のような経済力を求められます。
親が、女性が、そして男性自身がこの「呪い」をかけていると言えます。子世代の実情を把握できていない親世代が、「男性なのに非正規なんて」「男性なのにこれだけしか稼げないなんて」と嘆くことも、子ども(もう大人ですが)を傷つけているでしょう。
結婚にあたっては、共働きが当たり前の現代においても、女性は男性よりもパートナーの経済力を重視する傾向にあります。多くの結婚相談所において男性のみに年収証明書の提出が義務付けられていることからも明らかでしょう。なぜこんなことが起こるのかというと、「女は楽をしたがっているから」……ではなくて、女性は男性よりもさらに稼げない構造上の問題があるからです。
様々なデータから分かっていることは、正社員であっても女性は男性の7割程度しか稼げておらず、非正規雇用は男性の2倍であり、出産後は昇進が見込めないマミートラックに乗れればいい方で、仕事を続けられないことも多く、出産後新たに就職しようとしても買い叩かれがちで、シングルマザーのふたりにひとりは貧困ライン以下の収入しか得られないということです。であれば、パートナーの経済力を軽んじることはできませんよね。
男性が感じている大黒柱プレッシャーは自殺率にも表れています。厚生労働省と警察庁の調べによると、2019年の自殺者は2万人強で、男性が1万4078人と女性の倍以上でした。経済・生活問題で自殺する人は3359人で、そのうち男性は2980人で88%を占めています。
女性の方が稼げていないにも関わらず、経済問題で自殺する男性が女性よりも圧倒的に多い。これは、稼げないことの絶望が女性より男性の方がきついか、男性が大黒柱としての責任を負っているからか、いずれにせよ、過剰なプレッシャーの弊害ではないでしょうか。
努力すれば、真面目に働けば、誰でも裕福になれる時代ではありません。「男なら稼げ」「稼いでこそ男」という規範は、不幸な人を増やすだけです。外で働くよりも家事や育児の方が向いている男性は実は少なくないはずですが、この規範が有る限り、専業主夫・兼業主夫という選択肢も選びにくくなります。
どうすればこの「男なら稼げ」「稼いでこそ男」という呪いを解体することができるのでしょうか?
性別による生きづらさ解消の第一歩は、家庭内革命から
まず、前述した性別による経済格差がなくなれば、男性が過剰に大黒柱プレッシャーを感じなくてはならない理不尽はなくなります。性別関係なく同じように収入を得られるならば、男性だけに経済力を求める理由はなくなるでしょう。性別による経済格差がないとはすなわち、結婚や出産によって女性のキャリアが終わりにならないということでもあります。
そんな社会の実現のためには様々なアプローチが必要となりますが、欠かせないのは家事・育児の分担でしょう。女性だけが家事・育児・介護などに時間を費やす限り、女性のキャリアは中断され、男女の経済格差の縮小は困難です。
ジャーナリストの治部れんげ氏は著書『「男女格差後進国」の衝撃 無意識のジェンダーバイアスを克服する』(小学館新書)において、「ジェンダー問題を考えることは、男性をATM的役割から解放し、人間に戻す試みにもなる」と指摘しています。ジェンダーというと、女性の人権や自己決定権にまつわる問題を考える枠組みのように誤解する人も少なくないかもしれませんが、ジェンダーとは社会的な性差のことであり女性に限定した枠組みではないのです。
「男性が経済力を持つべきだ」は、ジェンダー規範に他なりません。この規範を私たちは小さい頃から、親や、マスメディア、政治、サブカルチャーによって繰り返し刷り込まれてきました。
治部氏は、本書において、ジェンダーの不平等のために次世代の男女が苦しむことがないようにできることとして、「親がジェンダー規範を強化させないこと」の重要性を指摘しています。
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