社会から「こうあらねばならぬ」と押し付けられる圧に囚われたり、根拠なき健康情報などに振り回される女性たちを「呪われ女子」と呼んできましたが、言葉だけを取り出せば、少女ホラーのヒロインたちこそ、その名がふさわしい存在です。いつもは現実世界で起こる不可解な出来事を、連載「スピリチュアル百鬼夜行」にて追っていますが、今回はフィクション作品の中にも目を向けてみましょう。
参考図書は、70~90年代の少女ホラー漫画を紹介したMOOK本『私たちが震えた 少女ホラー漫画』(辰巳出版)。作品紹介だけでなく、漫画家たちが思い出の作品を語ったり、単行本未収録という作品がまるっと再録されていたりする豪華仕様です。
同書に取り上げられている作品は主に『なかよし』『りぼん』『プリンセス』『花とゆめ』などのメジャー少女誌から、90年代に登場したホラー漫画専門誌『ハロウィン』『ホラーM』『サスペンス&ミステリー』『ネムキ』あたりに掲載されていたものが中心。さらに『少年チャンピオン』掲載の「エコエコアザラク」(古賀新一)や、貸本マンガからの流れを汲むマニアックなホラーレーベル作品などもまぎれ込んでいるのでぬかりなし、という印象です(ただしトラウマンガとして定番の「生き人形」(永久保貴一)や「汐の声」(山岸涼子)などが載っていないのは、何か大人のご事情か?)。
自分は、同書に取り上げられている作品を小中高と読み漁っていたどストライク世代なので、パラパラッと眺めているだけでも記憶の蓋がバカスカ開きまくりで悶えました。表紙だけでなく、さまざまな名シーンをたっぷり載せてくれているのも、この上なく最高~。
さて本題に進みましょう。そんな少女ホラーの洪水の中で記事のトップを飾るのは、1987年から小学館の『週刊少女コミック』で連載されていた「海の闇、月の影」(篠原千絵)。運悪く古代の謎ウイルスに感染してしまい特殊能力が備わった双子が、ひとりの男をめぐって人類を巻き込む壮大な姉妹バトルを繰り広げる物語です。
双子の姉・流水(るみ)がどんな物質もすり抜けることができる能力を悪用し、素手でバカスカ殺しまくる展開は、前作「闇のパープル・アイ」より猟奇度マシマシ。少コミといえば、かつては楳図かずおの「洗礼」(妄執の脳手術)や竹宮恵子の「風と木の詩」(元祖BL)が掲載されていた媒体ですから、基本攻め姿勢です。少女誌といえど猟奇描写が出てきてもなんら不思議はありませんが、当時は恋愛系作品のあいだで光輝いておりましたねえ(当社比)。
「愛され」が運命を分ける
「海の闇、月の影」の運悪く未知のウイルスに感染するという出来事は「呪われてる!」と言えなくもありませんが、もはや今の世の中では「まあそういうこともあるよね」という感じでしょう。凄まじかったのは、「愛され女子」かどうかが、能力と運命を分けてしまうという残酷設定です。
同じ先輩に恋心を抱いていた双子の姉妹でしたが、彼から選ばれたのは妹・流風(るか)。すると感染時の精神状態が差となり、幸せいっぱい夢いっぱい状態な妹はウイルスの脅威から人類を守る抗体となり、失恋した姉は人類を意のままに操れるという悪魔的存在に変質。しかも、ウイルスの影響で、悪意が増幅されるんですってよ~。けなげに戦うヒロイン(妹)よりも、カルマ背負わせられすぎな姉の悲壮さに、胸をえぐられた読者も多いんじゃないでしょうか。
気持ちをコントロールする術も知らず周りが見えなくなるほどに囚われてしまう思春期の恋は、そもそも呪いにかかったようなもんですが、それが成就せず心が死ぬだけでなく、人間としても終了という展開は本当にひどかった(誉め言葉です)。ああ、恋愛って怖いですね。
同書で紹介されるお次の作品は、現在も『ミステリーボニータ』(秋田書店)で最終章が連載中の「悪魔の花嫁」(あしべゆうほ)。1975年の『月刊プリンセス』(同社)創刊号が第1話でしたから、超絶長期に渡るシリーズだな(ついでに1981年に始まった同誌の「クリスタルドラゴン」もまだ終わってませんね~。続きはよ)。こちらのヒロインは悪魔の妹の生まれ変わりゆえ、悪魔につけ狙われるというナチュラルボーン呪われ女子。そして周囲で次々に破滅していく人々のドラマは、まるで呪われ見本市です。
悪魔が背中を押したとはいえ、闇落ちする人たちの多くは「自業自得」と思わせるケースが多いものの、理不尽に思えるものも少なくなく、人間とは! 人生とは! と、子ども心に多様な気づきをぶちこむ、示唆に富んだ作品です。2018年から学校教育では道徳教育が強化され、紋切り型の綺麗ごとばかりが並んでいる教科書が採用されているようですが、むしろこちらを読ませたほうが真人間になるんじゃないか!? ちなみに私は小学生のとき、某大型児童館の図書室でこのシリーズを読み漁りました。公の施設にホラーマンガが置いてある昭和って、なんて道徳的。
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