「被害に遭ったらどうするか」ではなく「痴漢に遭いたくない」から。痴漢抑止バッジの効果、9割が「あった」

文=雪代すみれ
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痴漢抑止バッジ(一般社団法人痴漢抑止活動センター提供)

 現在、痴漢被害に遭わない方法として言われているのは「出入口付近に立たない」「警戒する」といった対策だ。しかし、満員電車の場合は乗車位置を選べないことも少なくないだろうし、警戒していても被害に遭うこともある。なお、「露出を控えめにする」「隙を見せない」といった被害者に責任を押し付ける対策の提示は、セカンドレイプともなる。

 「痴漢に遭わないために、もっと有効な対策はないのか」——大阪の一般社団法人痴漢抑止活動センターが作成した「痴漢抑止バッジ」には、「痴漢は犯罪です 私たちは泣き寝入りしません」とはっきり記載されており、多くの女子高校生から「効果があった」と声が集まっている。

 痴漢抑止バッジが作られた背景や効果、現在挑戦しているクラウドファンディングについて、痴漢抑止活動センター代表理事の松永弥生さんに話を伺った。

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松永弥生
一般社団法人痴漢抑止活動センター代表理事。1965年生・大阪市在住。本業はフリーライター。10年以上ロボットコンテストを取材し、コンテストを人材育成に活かす手法とその成果を見守ってきた。その知見を生かし、学生を対象とした「痴漢抑止バッジデザインコンテスト」で、10年後、性犯罪に対する社会の意識を変える可能性を見いだした。「痴漢抑止バッジ」考案者の母 殿岡とは幼なじみである。 2015年8月に、殿岡がSNSに投稿した「私は泣き寝入りしません」のカードとそれまでの経緯を読み、缶バッジにすることを提案。殿岡から、相談をうけて「痴漢抑止バッジプロジェクト」を企画立案した。 クラウドファンディング×クラウドソーシングの活用して活動資金とデザインを募ったところ、多くの共感を呼び、メディアからも注目が集まった。プロジェクトを継続するために一般社団法人 痴漢抑止活動センターを立ち上げた。

●一般社団法人痴漢抑止活動センターホームページ

「私は泣き寝入りしない」カードをつけたら痴漢されなくなった

——痴漢抑止バッジはどういった背景で作られたのでしょうか。

松永弥生さん(以下、松永):きっかけは2015年8月、友人がTwitterに投稿したある画像とエピソードを見て衝撃を受けたことです。その友人の娘さんは高校に入学してから毎日のように痴漢被害に遭っていたのですが、「痴漢は犯罪です。私は泣き寝入りしません」というカードをバッグにつけるようにしたところ、被害がぴたっと止んだという内容でした。

 私はこれをとても良いアイディアだと思いました。これまで痴漢に関する啓発は「被害に遭ったらどうするか」の視点ばかりだったのですが、そもそも被害に遭いたくないですよね。この方法でしたら被害が起きないですし、被害がないので加害者もいない。痴漢がないので冤罪も起きません。

 ただ、カードを考案した彼女はとても傷ついていたと思うんです。彼女は警察に相談に行き、警察で「手を掴んで『この人痴漢です』と言えば周りの大人が助けてくれるよ」と言われ、家で声を出す練習もし、実際に捕まえたこともあるんです。でも周りの大人は誰も助けてくれなかった。大人を信じられないから、カードをつけるしかなかったんですよね。

 私自身も二十歳の頃は毎日のように痴漢被害に遭っていましたし、今でも痴漢被害に遭っている女の子はたくさんいます。彼女たちがつけやすいよう缶バッジにすることを友人に提案したところ、賛成してもらい、痴漢抑止バッジの活動が始まりました。

——痴漢抑止バッジの効果についてお伺いします。

松永:痴漢抑止バッジを作った頃から「本当に効果があるの?」とずっと訊かれていました。考案者である彼女も最初は「カードに比べて缶バッジは小さいから効果があるのか不安」と話していましたが、缶バッジにしてからも痴漢に遭っていません。

——それだけ、痴漢加害者は痴漢する相手をよく見て選んでいるのかもしれないですね。

松永:ほかにも埼京線で通学する70人に9カ月間使ってもらったところ、94.3%が「効果があった」と回答しています。残りの子は効果がなかったのではなく、「元々痴漢に遭っていなかった」「友人が『効果がないと思う』と言っていた」という回答で、元々痴漢に遭っていた子は「痴漢に遭わなくなった」「安心して電車に乗れるようになった」と効果を実感していました。また、痴漢抑止バッジの中にはアンケートはがきを同封しているのですが、たくさん「効果があった」との声をいただいています。

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