「被害に遭ったらどうするか」ではなく「痴漢に遭いたくない」から。痴漢抑止バッジの効果、9割が「あった」

文=雪代すみれ
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自分の意思で痴漢抑止バッジをつけている

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バッジと一緒にリーフレットを同封している(一般社団法人痴漢抑止活動センター提供)

——痴漢抑止バッジはデザインが豊富なのも印象的です。デザインを統一した方が認知度は上がりそうですが、なぜデザインを複数にしたのでしょうか。

松永:同じデザインで配布となると、「配られたからつけている」と見られ、バッジそのものの効果が薄れてしまうのではと考えています。複数のデザインがあることで「自分の意思で選んでつけている」ことが明確になります。できればつけたくないものですので、せめて好みのデザインのものをつけてもらえたらという思いもあります。

——痴漢抑止バッジに対し、否定的な意見はありましたか。

松永:活動当初は「痴漢被害に遭っている女の子は悪くないのに、バッジをつけさせるのはおかしい。加害者にやめろと言うべき」という声は複数いただきました。しかし、私は痴漢抑止バッジは自転車の鍵と同じと考えています。自転車を盗まれたくないので鍵をかけますし、「自転車を盗む方が悪いのだから『鍵をかけろ』なんて言うのは酷い」なんて言いませんよね。

 これまで痴漢被害者は「被害に遭った後どうするか」しか提示されておらず、自分たちに鍵をかける手段を知らなかった。もしくは被害者の服装や態度を責めるといったセカンドレイプによって、地味な服装や毅然とした態度が鍵のように提示されていました。

 もちろん痴漢被害に悩む子全員に痴漢抑止バッジで身を守ってとは言いませんし、今すぐ加害者に痴漢をやめさせる方法があるならそうしたいです。ですが、きっと今日も痴漢被害に遭っている子はどこかにいて、被害に遭うと恐怖心で身体が固まって声が出せなくなってしまう子もいます。「加害者にやめさせるべき」は正論ですが、今困っている子が救われる手段も同時に必要ですよね。

——今もなお、女性に対して性被害に遭わないよう”自衛”が求められる一方で、テレビやSNSで「女性専用車両を使うのは勘違い女」といったメッセージも同時に発信されています。女子高校生たちから「痴漢抑止バッジをつけにくい」といった相談を受けたことはありますか。

松永:前提として、痴漢加害者の臨床を行っている斉藤章佳先生の著書『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)では、痴漢がターゲットとして選ぶ女性について次のように書かれています。

<彼らが狙う女性を端的にいうなら、「被害を訴えでそうにない」女性となります>(p114)
<若い女性にこだわる痴漢もいますが、それよりも優先されるのが「気が弱そう」「大人しそう」といった特徴です>(p117)

 痴漢加害者にとって最も優先されるのは、容姿や年齢がどうこうより「自分が訴えられないか」であることがわかります。

 痴漢抑止バッジの活動をするなかで、「女性専用車両に乗りにくい」と相談してくれた子がいました。それならバッジをつけるのはもっと嫌かなと思ったのですが、彼女は「バッチの方がいい」と言っていました。それは、彼女が恐れていたのは友達の目だったからです。女性専用車両に乗るとなると、乗り降りするところを友人に見られる恐れがある。でも痴漢抑止バッジはクリップ式で乗る前にホームでさっとつけられますし、バッジを見られるのは車内で近くに立っている数人です。

 ただ、その話を聞いたとき、いろいろな歪みを感じました。テレビ番組やSNSで「女性専用車両に乗る女性はブス・勘違い女」といった内容は繰り返されている。大人が子どもに誤った認識を植え付けていますよね。

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