ジョー・バイデン〜アメリカ合衆国第46代大統領としての使命とは

文=堂本かおる
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ツイッター・不正投票・ゴルフ・票の数え直し

 以下、バイデンと次期副大統領カマラ・ハリスの当確報道がなされた7日からの、トランプとバイデンの動向を時系列で記す。両者の行動から、トランプは自身の敗北を認めず、アメリカを危機に晒し続けていること、バイデンはトランプの子供じみた癇癪に振り回されず、着々と新政権の準備を進めていることがわかる。

11月7日(土)

 今回の大統領選はコロナ禍が理由の郵便投票の多さから集計に時間がかかり、投票日から4日後の7日にようやく結果が判明。CNNが午前11時半頃に「バイデン当確」の速報を流すと、ニューヨークではあちこちから一般市民の歓喜の叫び声、車のクラクションが聞こえた。4年間のトランプ政権と、4日間にわたった緊張の開票作業を経ての朗報だった。コロナ禍であるにもかかわらず、全米各地で多くの人が街に繰り出して喜びを分かち合う姿が報じられた。どの人も笑顔ではあるものの、バラク・オバマ大統領当選時の純粋な歓喜とは微妙に異なる空気を、「独裁者が敗れた日のようだ」と表す声があった。

 この日、カナダの首相(ジャスティン・トルドー)が世界各国のリーダーに先駆けてバイデン/ハリスへの祝辞を発表。メッセージは「世界の最も困難な挑戦に共に取り組む」と締め括られていた。トルドーは週明けの9日にはバイデンに電話を掛け、直接の会話も交わしている。トルドーに続いて各国のリーダーが次々にバイデンへの祝辞を表明した。

11月9日(月)

 バイデンは次期大統領として、まず「コロナ」について、翌10日には「オバマケア」について、2日連続の記者会見を行った。米国が抱える数ある問題の中から最も急を要する2点だ。トランプが有効なコロナ対策を行わず、国民の命が危機に晒されていること、そしてそのコロナ禍の最中にトランプおよび最高裁がオバマケアを廃止すれば医療保険を失った人々がどうなるかについて述べた。バイデン政権のコロナ対策チームのメンバーも発表された。

 一方、トランプは唐突に国防長官(マーク・エスパー)の解雇をツイッターにて告知。6月にBLMなどのデモが多発する中、トランプは軍の投入を要求し、エスパーが反対したことへの報復と報じられた。以後の数日間に国防省から計5人が辞職/辞任を発表。大統領の任期が残り70日程度の時期の高官解雇は極めて稀であり、国防を不安定にし、かつバイデン新政権に大きな困難を与えることとなる。

 バイデン当確報道後も激戦州での集計が続く中、トランプは各州での不正投票をツイッターにて訴え続けた。その多くにツイッター社は警告メッセージを添付。トランプ選対チームは一般市民が不正投票を通報できる専用ホットラインを開設したが、イタズラ通報で溢れかえってしまったために回線を閉鎖した。

 ホワイトハウス報道官(ケイリー・マクナニー)が記者会見中に「違法な投票」と発言した瞬間に、フォックスニュースが中継を打ち切った。違法な投票があったとする根拠がないためだ。3大ネットワークNBC/CBS/ABCを含む複数のテレビ局も同様に中継中止している。右寄りで常にトランプ色を強く打ち出してきたフォックスニュースによる中継打ち切りはトランプと支持者の大きな怒りを招いた。

11月10日(火)

 司法長官(ビル・バー)が全米の連邦検察に不正投票の捜査を促す通達を出した。これを受け、不正投票の根拠がないとして、選挙犯罪部門の責任者が辞任。

 トランプ選対チームは不正選挙の訴訟費用寄付依頼のメールを支持者に頻繁に送付。寄付金はトランプのリーダーシップ政治行動委員会(PAC)と、共和党全国委員会(RNC)に流れ、票の数え直し訴訟にはほとんど使われないことが報道された。

 国務長官(マイク・ポンペイオ)は記者会見にて「国務省はバイデンの政権移行チームとやり取りをしているか」と聞かれ、「トランプ第2期政権への移行はスムーズに行われるだろう」と答えた。

11月11日(水)

 祝日:退役軍人の日。大統領はアーリントン国立墓地での献花と演説が恒例となっている。トランプはバイデン当確報道以来、初の公式行事に参加した。ただし予定より30分近く遅れ、献花のみでスピーチは行わなかった。

11月13日(金)

 トランプはバイデン当確報道後、初となる公式会見を行う。内容は新型コロナウイルス・ワクチンについてであったが、トランプはこれまでと同様に「チャイナ・ウイルス」のワクチンと称した。「もし他の政権であれば、ワクチン完成に3〜5年もかかっただろう」と自画自賛。

 さらに「一般市民には早くて4月に配給できるが、ニューヨーク州には配給しない」とした。ニューヨーク州知事(アンドリュー・クオモ)がトランプ政権のコロナ対策を信頼できず、ワクチンの審査は州独自に行うと発表していたことが理由(カリフォルニア州など4州もNY州に追随)だ。

 この会見を受け、クオモは黒人/ラティーノ・コミュニティにワクチンを公平に配給しないのであれば訴訟も辞さないと発言。クオモとトランプは以前より犬猿の仲であり、コロナ対策について、こうした衝突を繰り返している。

 接戦となったジョージア州ではトランプと同州の共和党からの要求により、約5万票を手作業にて数え直しを開始。再集計の結果、仮にトランプが優ったとしても獲得選挙人の総数を覆すことは不可能である。

11月14日(土)

 ワシントンD.C.にてトランプ支持者による「ミリオンMAGAマーチ」が行われる。トランプは車列を組んでゴルフ場に向かう途中でマーチを通り抜け、参加者に車中から笑顔を見せる。

11月15日(日)

 トランプはゴルフ。

 トランプが敗戦を認めないことから膠着状態が長引き、共和党の政治家からも「バイデンの当選を認めてトランプは退陣」を唱える声が出始める中、オバマ前大統領がCBS『60ミニッツ』に出演。「トランプへのアドヴァイス」を聞かれ、以下のように答えた。

「大統領は公僕です。ホワイトハウスに一時的に勤める者として設定されています。任期を終了した際は自身のエゴ、関心、落胆を超えて考え、国を第一とするのが仕事です」

11月16日(月)

 バイデンは「より良い再建」記者会見。翌17日に主だったホワイトハウス・スタッフを発表予定。半数程度がマイノリティ、女性と伝えられている。

 選挙日直後より全米各地で20件以上の不正投票提訴が行われたが、そのほとんどが判事により「証拠がない」と却下されている。

ジョー・バイデン:アメリカ合衆国第46代大統領の「可能」と「不可能」

 トランプの勝利と続投を声高に訴え続けるのはトランプ本人だけではない。1.5億人もの有権者が投票し、うち7,300万人がトランプに票を投じた。その中に今もなおコロナの存在を否定する人々がいる。マスクをせず、他者との距離も取らず、パーティや集会に出かける。そこで感染、重症化し、瀕死のベッドで「私はコロナではない」と怒りを顕にしながら亡くなる人々すらいる。コロナ禍初期にトランプがコロナを「たいしたことではない」と言い、 それを信じてしまった人たちだ。

 そうしたトランプ支持者の中には、バイデンを社会主義者と思い込んでいる人々もいる。国民皆保険(を目指す)オバマケアは社会主義の産物であり、アメリカには適さないものだと信じる人たちだ。

 警察暴力へのカウンターであり、それ以上に黒人の命の発露であるBLMを単に暴れる者たちとなじる人々もいる。これにより人種間の軋轢がさらに広がってしまった。

 彼らを変えることは、バイデンには不可能だろう。

 それでも誰かが、どうにかして軌道修正を始めなければならない。バイデンは高齢なこともあり、おそらく1期4年しか務めないと言われている。4年間でバイデンが行うのは、適正なコロナ対策によって国民の命を可能な限り救い、ひいては落ち込んだ経済も可能な限り回復させること。主要ポストにマイノリティを登用し、トランプによって白人男性優位となったシーンにオバマ時代、もしくはそれ以上の多様性をもたらすこと。これもトランプが締め付けた移民政策を見直し、コロナや経済とのバランスを取りながらも移民を歓迎するアメリカに戻すこと。トランプがギクシャクさせた他国との関係を友好に戻すことだ。

 幸いにもバイデンにはオバマ政権での8年間の副大統領経験がある。大統領の職務とホワイトハウスのあり方を熟知しており、各国のリーダーとも旧知だ。オバマ前大統領は政権参加は行わないと明言しているが、盟友バイデンへの個人的なアドヴァイスはあるだろう。

 そして4年後には、おそらくバイデンよりはるかに若く、はるかに大胆なアイデアに満ち、実践する大統領に、アメリカの未来を託すことになるのだろう。

 これからの4年間、トランプ支持者からのアンチ・バイデンの声は決して無くならないと筆者は考える。1月に行われるジョージア州の上院2議席の決勝戦で民主党が破れることになれば民主党は上院多数派になれず、バイデンの苦労はいや増す。しかしバイデンは次期大統領としての使命を理解し、当確前から着々と準備を進めている。副大統領カマラ・ハリスの存在も大きい。トランプの常軌を逸した「勝者」であり続けることへの確執、自分にブリーフィングさえ受けさせない嫌がらせも、乗り越えなければならない職務の一部と受け取っているのだろう。

 ジョー・バイデンこそが、アメリカ合衆国第46代大統領なのである。
(堂本かおる)

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