ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子です。大手広告代理店「電通」が、2021年1月から新しい働き方を導入することが報じられました。
「ライフシフトプラットフォーム」と名付けられたこの新しい働き方は「年齢に捉われず、社会において長く価値発揮できるような新しい選択肢」であると、電通のオフィシャルサイトでは公表されています。また、同サイトでは、2018年に構想を立ち上げたものだと説明されています。
ライフシフトプラットフォームは、「雇用契約」をしている社員を「業務委託契約」に切り替えて、個人事業主、つまり「自営業者」として電通の仕事を受注して働いてもらうという方法です。
この社員を個人事業主化するスキームは、2017年に大手メーカーのタニタでも導入されています。今後、企業規模にかかわらず増えていくと考えられる、つまり日本で働くあらゆる社員がこの類の働き方を迫られる可能性があるということです。
今回は、この報道内容を参考に会社員が知っておくべき「雇用契約」と「業務委託契約」の違いを解説したいと思います。
「電通」と聞いて思い出すこと
2017年秋、労働基準法違反罪に問われた電通への判決が下されました。この裁判は、新入社員が過労自殺した原因として同社の「違法残業」が焦点となったものです。裁判官は「尊い命が奪われており看過できない」と述べ、求刑通りの判決を言い渡しました。
社会保険労務士として仕事をしている筆者は、この判決を「妥当」としか思いませんでした。しかしなにより注目したいのは、その後、電通がどのように変化していったのか、です。 というのも、裁判官は、証拠を元に「毎月約1,400人が違法残業するなど長時間労働が常態化していた」と述べており、電通では長時間労働が当たり前だったということが伺えます。判決後、この企業文化や慣習、上司や先輩の仕事のやり方、取引先との関係などを全て変えることができるのだろうか? また、変える気があるのだろうか? と思いました。
裁判官は、「2018年度までに残業を削減するという目標が、どのように達成されるか社会全体が注目している」とプレッシャーをかけるような言葉も残しています。
ところが、1年後の2018年秋、再び違法残業に関する問題で、労働基準法違反、労働安全衛生法違反で是正勧告が出されたことが報じられました。
先述の通り、今回発表された新しい働き方は2018年からの構想とのことですから、少なくとも2017年秋以降に考えられたものです。これから詳しく説明しますが、今回の取り組みは「どうしても逃れられない残業」と「どうしても逃れられない法律」への対応策と読み取ってしまいます。
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