電通「社員を個人事業主化」に潜む、数多くのデメリット

文=川部紀子
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待遇と権利を手放すほどのメリットがあるのか

 電通の新しい働き方を報じた日本経済新聞によると、「全職種の40代以上の社員約2800人を対象に募集した」そうで、希望者は、「早期退職したうえで、電通が11月に設立する新会社と業務委託契約を結ぶ」とのことです。

 「電通では副業を禁止しているが、新制度の適用を受けると兼業や起業が可能になる」そうですが、「競合他社との業務は禁止」とのことです。また「契約期間は10年間」で「電通時代の給与を基にした固定報酬のほか、実際の業務で発生した利益に応じてインセンティブ」も支払われるとのことです。

 ここで、会社員等が今後の働き方を考える上で第一に読み取るべき点は、この制度を受け入れるということは、会社を辞めて退職金を受け取り、自営業者になる、つまり起業するということでしょう。「いやいや、起業だなんて大げさな。業務委託契約に切り替えるだけで仕事も給料も今まで通りだし、かえって自由が効くし」という考え方は非常に甘いと思います。

 同じことを同じような金額で受けるのであれば、会社をやめて自営業者になることには、待遇や権利の面で次のようなデメリットしか思い浮かびません。ちなみに例はごく一部です。

・退職金がなくなる
・解雇という概念がなくなる
・時間外・休日労働という概念がなくなるため24時間365日仕事が可能
・産前産後・育児・介護休業という概念がなくなる
・労災保険がなくなり、通勤災害、業務災害、過労死という概念もなくなる
・自己都合でも会社都合でも会社を離れても雇用保険(失業保険)はもらえない
・病気やケガで働けない場合の健康保険の傷病手当金がなくなる
・出産で働けない場合の健康保険の出産手当金がなくなる
・老齢年金と障害年金の金額が大幅に下がる
・遺族年金が大幅に下がる、子どもがいない配偶者への遺族年金がなくなる
・天引きや年末調整がなくなり、社会保険料の納付、経理業務や確定申告の義務が発生する

 これら待遇や権利のデメリットを逆転するほどのメリットを見出すには電通関連の仕事以外も大量に受注し、今までの収入を遥かに超える必要があります。しかし、ただでさえ長時間労働が常態化していた中で、今まで通りに同社の仕事をこなしながら他の仕事を受注してこなす時間があるのでしょうか? 本当に自由が効くのでしょうか? 競合他社との業務は禁止ということですから、選べる仕事にも制限があることが既にわかっています。

 本来、業務委託契約となれば、発注元から指揮命令されることは法律上NGですし、受注しない自由もあります。でも、契約が変わっただけで、今までの会社や上司からの指揮命令から開放されるのでしょうか? 発注を断ることができるのでしょうか? 難しいことのように思えてなりません。

 日本経済新聞によると、「人件費縮小などリストラ策ではないとしている」とのことです。人件費やリストラの必要に迫られている会社だとは思えませんが、同社が抱えていた大きな問題である「時間外労働」と「労働基準監督署」対策としては、この働き方を選ぶ人が多ければ多いほど効果はありそうです。

増える業務委託契約への移行に備えて

 社会保険労務士として思うのは、全従業員を業務委託契約にできれば会社側にとっては都合がいいだろうなということです。でも、会社側には、感情面も重視してほしいという願いがあります。

 人を雇うというのは、1日24時間のうちの睡眠時間を除いて半分ほどの時間、つまり、その人の人生のかなり多くの時間を費やしてもらうことになります。その行為を、会社の都合が理由で、従業員を業務委託契約に切り替えるようなことはあってはならないことです。会社側は、雇う時点でその責任や重みを知り、法律を全うすることの重要性を理解しなくてはいけないと思います。

 従業員側は会社員としての契約内容や権利をもっと知るべきです。会社オリジナルの優れた待遇や制度も知らず当たり前だと思っている人も多く、会社員だけが受けられる社会保険関連の給付も知らず、給料の「手取り」しか見ないようでは、会社に太刀打ちできるはずがありません。

 そして、今後増えると予想される雇用保険から業務委託契約への移行ですが、これは単なる移行ではなく、「起業」であると理解する必要があります。起業家としての気概や志、覚悟、そして自営業者として食べていける個人の力がないと、こんなはずじゃなかったということも大いにありえます。新しい働き方という名の下に苦しむ結果にならないよう、最低限の知識が必要です。

 起業や自営業者として働くこと自体が悪いわけではありません。筆者自身も20年近く自営業ですがやり甲斐を持って働いていますし、会社員になる気は一切ありません。意思を持った起業であれば推奨したい面も多くあるほどです。

 ただ、基本的な知識もなく、「今までと同じでむしろ自由」という感覚で業務委託契約に切り替えることには注意を促したいと思います。

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