コロナ対応を間違えれば、長期不況になりかねない。感染者数高止まりで見えてきた日本経済の希望と不安とは/飯田泰之氏インタビュー

文=カネコアキラ

社会 2020.12.23 08:30

GoToトラベルは優れたプロジェクトだった、が……

――コロナによる一時的な不況で済んだとしても、この間に失業した人たちはどうなるのでしょうか。失業率はコロナ以前から上がっていますし、有効求人倍率も下がっています。

飯田 最初にお話したように、生産にあまり人がいらないことがわかってしまった今、これから回復する雇用が従来通りのものである可能性は高くないと思います。

コロナでは飲食など未熟練労働を中心に雇用需要の大幅な減少が見られました。ではこうした人たちの新たな働き口がなくなってしまうかというと、希望的観測を言えば、そうとも限りません。

オクスフォード大のマイケル・A・オズボーンは、AIや機械化によって、雇用の47%が失われると予想し、日本でも話題になりました。しかし現在、これは過大評価なんじゃないかと言われてきているんです。減るのは業務であって、職業ではないことが最近分かってきたんですね。

例えば70年代と現在で、同じ工場労働者でも実際に行っている業務は違いますよね。かつては作業員が自らの手でギュイインと自動車を作っていたのが、現在はそうした作業をしている機械の保守点検などを行っている。業務内容は違いますが、職業自体は残っているんです。

またたとえ機械化が進んだとしても、マネージメント、クリエイティビティ、ホスピタリティの3つの仕事は残るとも言われています。それこそコロナによって打撃を受けた飲食や観光、宿泊は機械に代替されないものとして残っていくわけです。だからこそこうしたサービスの火を消さないようにして、新たな働き口としなければいけません。

ーー飲食、観光、宿泊についてはGoToプロジェクトによる支援が早々に打たれていました。感染者数を増やしたという批判もありますが、どのように評価されていますか?

飯田 私はGoToトラベルは結構優れたプロジェクトだと思っているんです。観光業は現在、世界の成長産業であることに間違いありません。過去10年間、世界全体のGDPの成長率より観光業の成長率の方が高いんです。

いわゆる観光地って、ホテルとタクシーと観光地と……と関連する施設が自生的な秩序によって、ちょうどよく形成されているんですね。これらが一度大きなショックによって壊れてしまうと、その秩序を再編するのにたいへんな時間がかかってしまいます。

旅行関連支出、特に宿泊を伴うもののうち宿泊費が占める割合って2割未満で、3割が交通費なんですね。しかも交通費のうち、5%ほどはレンタカーやバス、タクシー、近距離鉄道など、旅行先の移動や自宅から駅や空港への移動になっています。

GoToトラベルは、宿泊費と交通費を対象としたものです。つまり、宿泊を伴う旅行関連支出のうち全体の4割に対して最大5割の支援を行っているわけですから、20%の援助を行うことで100%の旅行による経済行動が行われるという、レバレッジ5倍の政策なんです。

潜在的には優れたプロジェクトだからこそ、いまのタイミングで始めたことは残念でなりません。例えばステージ3に入った都道府県の離発着便は停止するなどの停止条件、どのような状況になったら再開するのかを初めから明示すべきだったと思います。GoToトラベルを行えば、人の移動が増え、感染が増えるのは誰が考えても当たり前ですから、どのくらい感染が増えたら問題とするかを最初から決めておくべきだったんです。

すでに給付金のフェーズは終わっている

ーーその他の政策はいかがでしょうか。特別定額給付金の申請はすでに打ち切られ、第二弾はいまのところ発表されていません。持続化給付金も、来年1月に申請打ち切りが決まっています。

飯田 広く浅い給付金のステージはもう終わったと考えています。

給付金は景気対策、損失補填だとかなりの人が勘違いしていますが、原則は決済対策なんです。ようは家賃や売掛が払えなくなった人への融資であって、給付金を使って消費してもらおうという話じゃないんです。

そして現在、業界によっては回復し始めているところもあります。今後、業界ごとにコロナによる影響がどの程度続くのかが明確になってくるでしょう。まだコロナによってどのような影響が出るのかわからなかった時点では、広く薄いタイプの給付金には意味があったと思いますが、いまはもうそういうフェーズにはありません。

さらに今後給付金を続けたとして、例えば失業した家族4人の世帯がワンショットで40万もらってもしょうがないですよね。会社もそうです。一人法人の平均的な売り上げはだいたい月200万円ですから、持続化給付金をうけてもその月に助かる程度で焼け石に水です。

ーーではどのような政策が望ましいのでしょうか?

飯田 これから先は、必要な金額を自己申告してもらう必要があります。でも自己申告は不可能ですよね。無料でもらえるなら誰だって必要な金額を大きくいいますから。

そこで必要なのが融資型の支援です。融資なら最終的には返さなければいけませんし、金融機関が審査しますから、あまりに無茶なものはさすがに通しません。また融資型の支援は、最初にお話ししたコロナ収束後に起きると予想している需要の大変動の際に起きるであろう新たなビジネスを後押しするものでしょう。

現在、各国で様々な融資制度が行われています。日本はかなり頑張っているほうなんですよね。現在の優遇融資制度には政府補償と利子補填がついています。政府の補助があるので融資条件も企業側に有利なものになる。いま銀行の預貸率(預金に対する貸し出しの割合)が7割を切っていますから、その気があれば企業にお金を貸す余力はあるんですよ。

こうした制度によって、多様な形態の新ビジネスが立ち上がったり、新規事業ではなく決済対策だとしても銀行からお金を借りられる可能性が出てくる。加えて政府が早く決めておくべきことは、損失繰越の長期化と課税の猶予でしょう。コロナによる損失を埋める期間を伸ばすことで企業や個人事業主はかなり助かるはずです。さらに、すでに延長が決定している、融資のリスケジュールについてその対象期間を広げていくなどの対応も求められます。

すでにお話しした通り、コロナはいずれ収束される危機です。その後、現在の不況がコロナによるものだけで済むのか、それとも長期停滞に発展してしまうのかはまだわかりません。最悪なシナリオにならないためにも、対策を見誤ってはいけません。
(聞き手・構成/カネコアキラ)

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飯田泰之

2020.12.23 08:30

1975年東京生まれ。エコノミスト、明治大学政治経済学部准教授。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書は『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『経済学思考の技術』『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』『経済学講義』(ちくま新書)、『日本がわかる経済学』(NHK出版)、『これからの地域再生』(編著、晶文社)など多数。

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