ナチス占領下にあるフランスの小さな村がユダヤ人児童を救った。映画『アーニャは、きっと来る』監督インタビュー

文=此花わか
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ナチス占領下にあるフランスの小さな村がユダヤ人児童を救った。映画『アーニャは、きっと来る』監督インタビューの画像1

(c) Goldfinch Family Films Limited 2019

 マイケル・モーパーゴが書いた名作『戦火の馬』を子供の頃に読んだ人もいるだろう。2011年にスティーブン・スピルバーグが映画化したことでも有名だ。

 その類まれなる作家性により、イギリス王室から「サー」の称号を授与されたモーパーゴが1990年に出版した小説『アーニャは、きっと来る』が同名で映画化され、11月27日に日本で公開される。映画はNetflixドラマシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』でウィル役を演じたノア・シュナップが主役を熱演し、ジャン・レノやアンジェリカ・ヒューストンといった豪華キャストが脇を固めた、人間性と差別の根源に迫った素晴らしい作品に仕上がっている。

 先日、この映画のメガホンをとったベン・クックソン監督にインタビューを行い、今年2月に開催されたブリティッシュ・フィルム・インスティテュート(BFI)のQ&Aに登壇した原作者モーパーゴの話をYouTubeで見たが、いずれも非常に興味深い誕生秘話が聞けたので皆さんにご紹介したい。

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(c) Goldfinch Family Films Limited 2019

フランスの“普通の人々”がユダヤ人の子供たちを逃がしていた

 1942年の冬、スペインとの国境ピレネー山脈の麓に佇むフランスの小さな山村・レスカンに住む、13歳の羊飼いジョー(ノア・シュナップ)は第二次世界大戦中とはいえ、気丈な母(エルザ・ジルベルスタイン)、優しい祖父(ジャン・レノ)に愛される平和な日々を送っていた。唯一の悩みは父親(ジル・マリーニ)がドイツの捕虜になり、労働収容所に捕らえられていること。来年の夏には「移動放牧」に旅立つ予定で、ジョーはそれが待ち遠しい。

 しかし、ついにナチスがレスカンに駐屯し、村に暗雲が立ち込める。ある日、ジョーは未亡人オルカーダ(アンジェリカ・ヒューストン)の義理の息子、ユダヤ人のベンジャミン(フレデリック・シュミット)と山中で出会う。彼は生き別れてしまった娘アーニャとオルカーダの家で落ち合うと約束していたのだった。オルカーダとベンジャミンがユダヤ人の子供たちを納屋で匿っていることを知ってしまったジョーは、彼らと一緒にスペインへ子供たちを脱出させることになるのだが……。

 というのが『アーニャは、きっと来る』のストーリーだ。原作に演出が加えられてはいるものの、映画の大筋は原作に忠実に作られている。

 フランスではナチスに抗う人々としてレジスタンスが有名だが、実はユダヤ人の子供たちを匿い、他国へ逃がす活動を行っていた“普通の人々”も少なからずいたのをご存じだろうか?

 例えば、1912年にロシアのユダヤ人コミュニティによって設立された『OSE(Oeuvre de Secours Aux Enfants/Children’s Aid Society)』という組織は、歴史家の間では有名で、1933年にパリに本部を設置し、第二次世界大戦中にはユダヤ人の子供たちに身分証明書やパスポートを偽造して非ユダヤ人家庭に預け、外国へ送るなどの救助活動を行っていた。実際に『OSE』は大戦中5,000人以上のユダヤ系の子供を救ったと言われている。

 覚えておきたいのは、こういった組織を運営していた人々は歴史に名を残さない“ごく普通の人々”だったことだ。教師、主婦、農夫、郵便局員……こういった人々が自らの命を顧みずに協力し合い、成し遂げられた偉業は決して教科書では語られない。

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