ナチス占領下にあるフランスの小さな村がユダヤ人児童を救った。映画『アーニャは、きっと来る』監督インタビュー

文=此花わか
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(c) Goldfinch Family Films Limited 2019

 本作は児童文学といえど、村人からナチ軍人に至るまでキャラクター考察が非常に深い。だから、文化や世代を超えて多くの人々の心を引き付ける素晴らしい物語に仕上がっているのだが、そもそもモーパーゴの小説は子供の目を通して描いたものが多い。モーパーゴはなぜいつも子供の目から、複雑でダークなリアリティを映し出すのだろうか──そんな疑問をクックソン監督に投げかけてみたところ、監督はこう語った。

「それには2つ理由があると思います。第一に、消えゆく“記憶”を次の世代へ伝えるため。第二次世界大戦を生き延びた世代が絶えてしまう前に彼らの記憶を子供たちに伝えたいということ。
 第二に、子供の目を通して“記憶”を語ることで、より純粋な人間性を映し出すことができること。子供たちは大人よりも哲学的で心で善悪が分かっていると思います。けれども私たちは成長するにつれ、政治的・社会的規範に染められ、純粋な善悪から離れていきますよね? 本作のジョーはなぜユダヤ人の子供たちを助けたのでしょう? 決して政治的な信条が理由ではない。子供たちの視線から、社会や政治に惑わされない、真のヒューマニティが見える」

 劇中、アーニャの父ベンジャミンにジョーは聞く。「なぜユダヤ人は嫌われるの?」。この純粋な問いにベンジャミンは、人間には自分の不幸や不満を誰かのせいにしてしまう性(さが)があることを教える。なぜ、我々は特定の民族をやり玉にあげるのか──。差別の根源は何なのか──。ジョーを通してこの映画は我々にそう問いかけるのだ。

 クックソン監督は、レスカンの住民に感謝の気持ちを込めて上映会を催し、住民全員を招待した。そこにはフランスの歴史家2名も出席しており、監督は歴史家に何を突っ込まれるのだろうかと内心緊張していたそうだが、意外にも彼らはこう言ったという。

 「一般的なフランス人も知らない、小さな村の“普通の人々”が差別に抗った歴史を映画にしてくれて、ありがとう」と。戦争の“記憶”が薄れるなか、このように“歴史に名を残さない人々”を題材にした小説や映画は我々の宝物だと言えるだろう。数々の偶然が呼んで創り上げられたこの稀有な“真実”の物語をぜひ劇場で堪能してほしいが、ひとつだけ注意してもらいたいことがある。

 実はこの映画にはマイケル・モーパーゴがカメオ出演しているのだ。ほんの数秒のシーンだが、ヒントは映画の冒頭で歩いて来る黒っぽい服に身を包み、杖をついた老人。モーパーゴが冗談交じりに言うには1日かけて撮影された彼の登場シーンは編集の度に短くカットされていったらしい。クックソン監督のストイックに“真実”を求める姿勢には、原作者モーパーゴもお手上げだったようだ。

(此花わか)

【参考】
Michael Morpurgo and Ben Cookson on Waiting for Anya – BFI Q&A(YouTubeリンク

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『アーニャは、きっと来る』
11月27日(金)より、新宿ピカデリー他全国ロードショー

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