マイナンバーカードから性別記載をなくしてほしい 

文=遠藤まめた
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 ここのところ、政府があの手この手を使って、マイナンバーカードの取得率を向上させようとしている。

 マイナンバー制度とは12桁の番号によって日本で住民票を持つ人すべてを識別するというもので、行政手続きをスムーズにするために2016年から導入のはじまった仕組みだ。しかし、そう言われてもなんのことやらイマイチわからないと感じる人も多いだろう。筆者もそのひとりで、なんとなく「個人情報が流出するんじゃないの?」と制度そのものに不安を抱いていたりもする。

 12桁の個人情報のかたまりと、顔写真、氏名、生年月日、そして性別が記載されたマイナンバーカードは身分証として使うこともできるそうだが、別に運転免許証や健康保険証でも日頃の生活には事足りる。そのため他の身分証を持っている人にとっては「マイナンバーカードをぜひ取得しよう」というモチベーションにはならない。

 今年7月1日時点でマイナンバーカードの取得率は17.5%と低迷しており、政府としてはせっかく制度を作ったのに歯がゆい状況だったのだろう。デジタル庁の発足にあわせて、マイナンバーカードの健康保険証や運転免許証との一体化をはかる議論が急速に進んでいる。報道によれば、自民党のデジタル社会推進本部は「従来の保険証を将来的には廃止する」ことを政府に今月要望している。運転免許証とマイナンバーカードは2026年に一体化する見込みだという。

 実はこれは法律上の性別とは異なる性別で暮らしているトランスジェンダーにとっては生活にかかわる重大な問題にもなる。マイナンバーカードには「男」「女」といった性別がはっきり刻印されているが、運転免許証にはもとから性別記載はない。車を運転する能力を示すのに性別は関係ないからだ。そのため運転免許証はトランスジェンダーにとって、長年便利な身分証として重宝されてきた歴史を持つ。

 健康保険証については、10年以上にわたる当事者のねばりづよい働きかけがあって、2017年には厚生労働省が被保険者証の氏名表記について通称名を表面に書いてもいいし、性別を裏面に記載してもよいとの通知を出している。なぜ健康保険証でこのような配慮が重要なのかといえば、全国各地の医療機関で、待合室からフルネームで呼びだされることによって当事者が好奇の視線にさらされ、「あの人は女性の身なりなのに、どうして名前が山田太郎さんなのか」「男なのか女なのか」と詮索されてきた経緯があるからだ。

 具合が悪くて医療機関を受診したいのに、受診をきっかけに地域の中で差別をうけるリスクもあるとなれば、気軽に地元の病院をおとずれることもできない。その結果、なるべく病院には行きたくないとか、わざわざ離れた病院にいくようにしているといったトランスジェンダーの当事者もおり、健康リスクにもつながる。こうして健康保険証のあり方は見直されてきたのだった。

 もし現行のマイナンバーカードに、運転免許証も保険証も一体化されることになったら、これまで勝ちとってきた権利は後退することになるだろう。デジタル化が進み、情報管理が一元化していく流れが止められないのだとしたら、ぜひとも性別記載のあり方については見直してほしい。12桁の個人情報のかたまりの中にすでに性別情報は盛り込まれているだろう。だとすれば、わざわざカードに文字で記載しなくても良いのではないか。

 マイナンバーカードを保険証がわりに使うことになるならば、前述の通称名についても検討してほしい。性的少数者であることを本人の同意なしに暴露するいわゆる「アウティング」は、トランスジェンダーの場合には個人情報のずさんな扱いによっても生じてしまう。

 天才ハッカー集団が総務省のデータベースを攻撃しなくたって、個人情報の漏洩による「重大事故」はおきうる。制度を作る人たちがマイノリティの存在を想定した設計をしてくれることを期待している。

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