「子どもの成功は母親の手柄」とファシズム、または少子化の関係

文=原宿なつき
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GettyImagesより

 子の成功は親の手柄であり、子の不祥事は親の責任なのでしょうか? 少なくとも今の日本においてはそのように見えます。

 息子の性犯罪を詫びて深々と頭を下げる女優の母親、4人の子を東大に合格させたことでメディアに引っ張りだこの母親、引きこもりの息子を「責任感から」殺害して同情され減刑を求める嘆願書が集められた父親……まるで親と子が一心同体、運命共同体のようです。

 とくに母と子は同一視されやすい傾向があり、母親の献身は美しい物語として語られます。しかし社会学者の品田知美は、著書『「母と息子」の日本論』(亜紀書房)において、「母と子」を同一視することの弊害を指摘しました。

母親の自己犠牲は無償の愛ではなく、他人を利用した自己実現?

 母親は多かれ少なかれ子どものために献身します。自分の体を痛め、死ぬ可能性もあるのに出産し、睡眠不足になりながらお世話をするのは、母親としてごく当たり前のことだと考えられています。大変な思いをして産んだ我が子はかわいいはずなので、無償の愛でお世話できる、それが母性である、と見られているのでしょう。

 しかし、母と子が同一視される世界においては、それは自己犠牲であり献身ではありますが、無償ではない場合も多いのです。

 子どもの業績=母親の業績、として評価されることは、「子どもを4人東大に合格されたママ」がブランドになることからも明らか。つまり自己犠牲は、子どもという他人を通して行われる自己実現にもなり得るわけです。

身を捧げる母とファシズムの関係

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『「母と息子」の日本論』(亜紀書房)

 品田が『「母と息子」の日本論』(亜紀書房)で指摘しているのは、「母と子が分離していないこととファシズムの関係性」です。

 <「子を業績達成にかりたてる」という母親の持つ一面が、時代によって戦場に送ったり、モーレツサラリーマンに仕立てたり、ブラック企業であろうと過労死するほどに息子をかりたててしまうように、変化しているだけである>(P.42)とし、「身を捧げる母の行為にファシズムの源泉がある」といいます。

 戦前の日本では、軍国主義の体制に母性という概念を利用した経緯がありますが、品田は、「日本には歴史的に母性と権力には強固な関係がある」と述べてもいます。

 子どもの業績が母親の業績とみなされるのであれば、母親は子どもを熱心に「社会にとって役立つ人間」に育てようとするでしょう。そして子どもの性別が男のほうが業績を達成しやすい社会構造においては、娘より息子に多くの教育投資をするのも合理的な選択となります。自己犠牲的にすべてを捧げてきた息子を戦場に送り出す母親は、「それこそが自分の業績達成になりえた」のです。

 興味深いのは、ファシズムが猛威をふるったイタリアや、母親に自己犠牲を強いる規範が強固なドイツや日本は今、先進国きっての低出生率が確認できるということです。

 でも考えてみれば、私自身も、女優の母が息子の性犯罪で頭を下げる姿を見た時、「20歳過ぎた子どもの犯罪の責任まで親が感じなきゃだめなのか。そこまで責任負えない」と、子どもを持つことに対して重苦しい気持ちになったものです。また、親が子どもに自分のリソースの大半を割く場合、一般的には1〜2人を育てるのが精一杯ではないでしょうか。

母親の愛を褒め称え、一生涯の献身を求める世界

 世の中には、母と子の分離を当然視する社会もあります。イギリスなどでは、成人したらどれだけ金銭的に子どもがきつくなろうと、当然一人暮らしをするものだという価値観があるため、引きこもりなどの問題は起こらないそうです(貧困などそれ以外の問題は当然ありますが)。

 しかし日本で「母と子は分離するべき」という議論が政治的に交わされることはありえないかもしれません。自民党の憲法改正案は家族の助けあいを強化する方向ですし、「自助、共助、公助」の自助には家族での助け合いを含むことが明らかです。

 母親が子どもを通して業績達成をしようとする試みは、高学歴の女性が「社会に還元できる貴重な知識をもった個人」として自らの力を発揮するのではなく、息子や娘の教育という一点において力を尽くし自己実現をはかる、ということにもつながります。娘よりも社会的な成功を成し遂げやすそうな息子により多くの教育投資をする親と、頑張って日本の中枢にのぼりつめる息子たち。男女の社会的地位や賃金格差は一向に縮まりません。

 「母親という無償で子育てをしてくれる人」を褒め称え、崇めながら、たくみに「業績達成可能な人材」を育成させるシステムが、男女格差を「自然にあって然るべきもの」として温存させるのかもしれません。それ以外に自己実現の方法がないと思い込んでいる女性には、子育ては死活問題です。本当によくできたシステムですね。

(原宿なつき)

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