
©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
『鬼滅の刃』の人気が止まらない。コミックスの売上累計は1億2000万部を突破、12月4日に発売される最終巻の23巻は初版395万部を発行、映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は1カ月半で興行収入275億円を突破し、歴代の興行記録を塗り替える勢いだ。
『鬼滅の刃』と直接関係がなくとも「名称が似ている」「風景が似ている」といった場所にファンが押し寄せ、日本中に聖地ができている。コンビニに行けば棚はコラボ商品でいっぱい。大人も子どもも『鬼滅』に夢中だが、一方で「流行っているけど、残酷シーンも多いと聞く。子どもに見せていいの?」という親の声も少なくない。
『鬼滅の刃』の設定として、鬼は首を切るか日光に当たらないと死なないため、戦闘シーンではたいていの場合、鬼の頭部や四肢が飛ぶことになる。人間も大勢、惨殺される。映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』のレーティングはPG-12(Parental Guidance)。小学生以下の子どもが観る場合、保護者の助言・指導が必要とされている。
本来、親自身が「見せていいかどうか」を考え、判断すれば良いことだが、実際にどう助言・指導したらよいのかわからず戸惑う親もいるようだ。
コーチングの第一人者であり、京都芸術大学副学長の本間正人氏は、これほど多くの親子が夢中になっている『鬼滅の刃』は、子どもと親が対峙する絶好の機会だという。そこで、「PG-12」作品である『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の見方を具体的に聞いた。

本間正人(ほんま・まさと)
「教育学」を超える「学習学」の提唱者であり、「楽しくて、即、役に立つ」参加型研修の講師としてアクティブ・ラーニングを25年以上実践し、「研修講師塾」を主宰する。京都芸術大学教授・副学長、NPO学習学協会代表理事、NPOハロードリーム実行委員会理事。コーチングやポジティブ組織開発、ほめ言葉などの著書77冊。
『鬼滅の刃』、「子どもに見せていいの?」
――保護者間でも『鬼滅の刃』について「グロすぎる。子どもに見せていいの?」と否定的な意見は少なからずあります。本間さんは映画をご覧になりましたか?
本間:観ました。大人も楽しめるエンターテインメント作品で、わかりやすいし泣かせるし、感動する仕組みがいくつもあって、ヒットするのも納得ですね。一方で、「死の扱い方」で不安に思うとか、子どもには衝撃が強いと危惧される保護者がいるのもわかります。ただ、だからこそのPG-12指定です。10年前の大日本震災をはじめ、今年は志村けんさん、三浦春馬さん、竹内結子さんなど著名な方々も突然亡くなりました。子どもたちを「死」から遠ざけておくのではなく、考える機会の一つにしてはどうでしょうか。
――そのPG-12指定ですが、親はどのように理解し、実践すれば良いのでしょうか。
本間:要するに、親子一緒に映画を観賞した上で、対話をするということです。その対話のコツを、5つにまとめてみましょう。
「子どもの感想を否定しない」
まず大前提として、親はお子さんとの対話において「相手の言ったことを否定しない」。とても大事なことです。絶対に「それは間違っている」「そうじゃない」「考えが浅い」などと言ってはいけません。
子どもがせっかく自分で考えた意見を言っても、ダメ出しをされたら「二度と言わないようにしよう」と思ってしまいます。どんな意見でもすべて受け止めてください。「そんなふうに思ったんだね」と言って受け入れると、自己肯定感が高まります。
日本はPISA(義務教育修了段階の15歳児を対象に読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野で3年ごとに実施される国際学力調査)で79カ国中読解力が15位、数学が6位、科学が5位と、人口が1億人以上いるにもかかわらず非常に得点が高いのです。しかし満13~29歳の若者を対象とした意識調査では、日本は自己肯定感が7カ国中最低でした。学力は高いけれど、自分に自信がないのが日本の子どもの特徴なのです。
自分に自信が持てず、間違ってはいけないと思うと「他の人はどう言っているかな」と気遣って同調圧力に屈しやすくなってしまいます。自己肯定感が低いと、積極的になにかにチャレンジしたり、自分の頭で考え、意欲的に物事に取り組むことが難しいのです。
ここ10年くらいで、「アサーティブネス・トレーニング」が盛んになりました。自分の感情や意見を表現して伝える技術です。日本ではビジネススキルとしてトレーニングすることが多いのですが、本来大人になってからやるものではなく、子どものうちから身につけておくべき能力です。学校を変えるのは時間がかかりますから、自分で考えた自分の意見を言っていいということを、家庭内からまず実践しましょう。
答えやすい質問から入ろう

GettyImagesより
映画を見終わったら、まずお子さんに質問してみてください。このとき「答えやすい質問からすること」がコツです。
よくあるのは「どうだった?」と聞いてしまうこと。親がぱっと口をついてでることを聞いてしまう。そう聞くと「よかった」「面白かった」と答えもボヤッとしたものになって、会話も弾みませんね。短い会話のまま終わっている人は多いのではないでしょうか。
聞き方のコツは、映像が思い浮かぶような質問をすることです。この映画の場合、最初は「怖くなかった?」から聞くといいかもしれません。たぶん、少し怖いと思う場面はあったのではないでしょうか。それを一旦受け止めて、心理的な安心を与えて上げるのです。
でも「怖かった」で終わってしまうともったいないので、さらに話を膨らませましょう。
「一番印象に残ったのはどのシーン?」
「煉獄さんはどんな人だと思った?」
「登場人物の中で誰が一番好き?」
「無限列車に乗ってみたい?」
などと、具体的に事実関係を聞くのがいいですね。
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