「円高不況」煽りに騙されるな。消費者が割りを食う金融緩和

文=斎藤満
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Getty Imagesより

コロナ禍での円じり高に日銀動揺

 新型コロナの感染拡大に国民の目が向いている隙に、為替は静かに円高が進んでいます。ドル円はコロナ禍が本格化する前の春先まで1ドル110円から112円あたりをつけていたのが、世界的なコロナの感染拡大の中でその後ドル円はじりじりと円高が進み、11月に入ってからは100円台前半をつけることが多くなっています。

 円高の原因は日本ではなく、財政・貿易の「双子の赤字」を拡大させている米国にあります。つまり、本来ならこの赤字で金利が上がってしまうところを、米国の中央銀行FRBが米国債を月に800億ドル(8兆円強)も買い支えているために、長期金利も1%未満の歴史的低水準にあります。双子の赤字にも関わらず金利が低いことがドルの価値を下げています。

 原因が米国にあるとはいえ、円高の動きに神経質になっているのが日銀です。コロナ禍で経済が悪化する事態に備えると言っていますが、内心は為替を気にしていて、このまま100円を割る円高になったらどうしよう、と心穏やかではありません。これまで円高になるたびに産業界から強い批判が浴びせられ、産業界と連携する政府からも「円高を止めろ」と催促されてきました。

 実際、これまでの円高時には、輸出に依存する自動車業界や家電メーカーが日銀に対して「我々を殺す気か」と厳しいクレームを突きつけました。それだけ日銀も円高には恐怖感を持っています。そして政府やメディアの間から「円高不況」、「円高デフレ」という言葉が飛び交うようになり、円高は良くないもの、との印象を国民に与えました。

 ある意味では、これこそ米国の術中にはまったことになります。ドル安策は裏を返せば円やほかの通貨を高くすることで、相手国に一層の金融緩和を促します。そして世界中が金融緩和に出れば、株が上がり、世界の大金融資本が大きな利益を上げる構図となります。現に、日銀は米国発の円高になるたびに「円高不況」回避と言って、大規模緩和を続け、しばしば「バブル」を発生させました。

実際には円高不況はなかった

 もっとも、過去の「超円高」時を振り返ってみると、プラザ合意でドルが240円から120円に一気に半分に切り下げられた1985年も、ドル円が78円まで円高となった95年春も、日本経済は不況には陥らず、そもそも輸出も減りませんでした。大騒ぎした割に、経済は拡大を続けたのです。特にプラザ合意後の円高を受けて政府日銀が大規模緩和に出て、その後歴史的なバブル経済を生み出したことは周知のことです。

 それは輸出自体が減らなかったばかりか、円高で個人消費が刺激され、さらに政府日銀が慌てて景気対策を打ったこともありました。そもそも、為替は相手のあるもので、通貨高の国があれば通貨安の国も当然あります。そして通貨安の国だけ景気が良くて通貨高の国は「不況」や「デフレ」になったかと言えば、現実はそうなっていません。

 むしろ1997年のアジア通貨危機ではタイや韓国が自国通貨の大幅下落で深刻な経済危機に陥り、IMF(国際通貨基金)や米国から資本支援を受けました。またアルゼンチンやトルコなど、通貨安で経済危機に陥った国も少なくありません。逆に日本やかつての西ドイツは円高、マルク高で経済が強くなり、世界に飛躍しました。

個人にとっては円高の方が得

 日本で円高が嫌われる理由は、自動車業界など、輸出に依存する企業の収入が減り、利益を圧迫するからです。例えば、1985年のプラザ合意前後で、1台2万ドルで輸出した日本車の受取代金は、プラザ合意前では480万円あったのが、プラザ合意後の円高で240万円に半減しました。その分値上げをすれば、今度は売れなくなります。

 しかし、逆に輸入車は2万ドルのアメ車が240万円で買えるわけで、消費者には大きなプラスになります。少なくとも消費者にとっては、海外旅行するにも、輸入ブランド品を買うにも、ガソリンを入れるにも、円高は恩恵となります。円高は個人にとって、「海外からの減税」と同じ効果を持っています。

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