「円高不況」煽りに騙されるな。消費者が割りを食う金融緩和

文=斎藤満
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 ところが、政府も日銀も個人の声よりも輸出企業の声を尊重し、円高のたびに為替介入をして円高を修正したり、金利を引き下げて円安に誘導したりしてきました。2012年12月に誕生した第二次安倍政権は「円高デフレ退治」と言って日銀に異次元の大規模緩和を求め、その結果日本株も日経平均は8千円から一時2万4千円台まで約3倍になり、真っ先に日本株を大量に買い込んだ海外の投資家は大儲けしました。

 しかし、この円高阻止策は、株と無縁な一般消費者には、いろいろな面で不利益となります。かつて日本の1人当たりGDP(国内総生産)は世界のトップ5に入っていましたが、安倍総理が就任して以来、1ドル80円前後だったドル円が一時は125円まで円安に修正されました。そしてIMF(国際通貨基金)のデータによると2019年の日本の1人当たりGDPは4万ドルに低下し、世界で第25位に後退しました。

 円の価値が下落しただけでもこのように日本の国際的な地位が低下し、日本人の購買力は低下します。海外旅行が高くつき、輸入食材やエネルギーコストも高まり、消費を圧迫します。しかしそれだけではありません。円高を阻止するためにとられる金利引き下げなど、金融緩和も、老後に備えて貯蓄に励む人々には負担となります。

 1990年代の前半には家計部門が年間に受け取った金利収入は一時30兆円から40兆円もありました。それが今やほとんど「ゴミ」のようなものに減りました。個人の金利収入が減った分、借金をする企業や国債で借金する政府が助かっています。利下げは預金者、債権者から債務者への所得の移転をもたらし、個人が割を食います。

 さらに、超低金利の長期化で、長期金利もマイナスやゼロになって、金融機関の運用ができなくなり、収益が圧迫され、経営に行き詰まるところが増えています。このため、金融機関は店舗や人員を削減し、コストダウンを進めていますが、それでも追いつかない分を、通帳発行手数料や口座管理手数料などで預金者に負担を強いることも検討し始めました。

 近所に銀行店舗がなくなり、ATMも減り、預金者は不自由になるばかりか、銀行に口座をもつだけで手数料を取られる不利益を被りかねなくなりました。円高阻止並びにそのための行き過ぎた金融緩和は、個人にとって大敵となってきました。

 新型コロナの感染拡大で日本では輸出企業よりもサービス関連など、個人消費関連企業が大きな打撃を受けています。労働者も休業や失業で所得を失う人が増えています。その点、円高のメリットを生かし、個人の購買力を高めることで、間接的に飲食店や観光関連にも恩恵が回るようになります。政府日銀は円高でうろたえるのではなく、これを積極的に活用することも考える時期にあります。

(斎藤満)

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