ドラマ『保健教師アン・ウニョン』が炙り出す韓国社会の問題点

文=gojo
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 この度、日本でも第4次韓流ブームと言われるほどに盛り上がりをみせている韓国ドラマについてのレビューを書かせてもらうことになった。ということは、それなりに韓国ドラマを見ている自覚はあるのだが、同時に、めちゃくちゃにわかであることも自覚している。

 どれくらいにわかかと言うと、今年に入ってからのコロナ禍による強制的なステイホームの中で、今まで避けてきた配信サービス(映画は映画館でしか見ないタイプのオタクなため)に加入、信頼する友人に勧められるがままに韓国ドラマ初体験として『愛の不時着』を見てみたら、主演のヒョンビン沼にどっぷりハマるのはもちろん、その内容に「なんなんだこのクオリティの高さは!!」と腰を抜かすほど驚いて、まさか他のドラマでもこんなに凄いことが起こっているのか!? と確認するために見た話題の人気ドラマたちが次から次へと感動と感心を更新してくるという、とんでもない事態になって、現在に至る。

 しかし、2015年前後に制作された比較的最近の韓国ドラマを見続けていくうちに、その感動と感心は、男女のラブストーリーという枠を完全に飛び越え、「韓国(大韓民国)」という国だから語り得るもの、と同時に、現代社会で世界的な共通認識としての社会問題と正面から向き合う姿勢を併せもつ、重層的なドラマを作り手たちが志している、そして実現できている、という奇跡のような状態から生まれており、その作り手たちの真摯な思いが日本のわたしたちの心にも強く響くのだろうと考えるようになった(筆者自身は朝鮮語が一切話せない在日3世ではあるが)。

 そのような観点から、幾つかの韓国ドラマについて、にわかなりにわたし自身の言葉で語っていけたらと思う。

『保健教師アン・ウニョン』はなぜSFなのか

 2020年9月からNetflixで配信がスタートした、『保健教師アン・ウニョン』は、チョン・セランによる人気小説が原作とはいえ、それを読まずにドラマを見た人たちからは、かなり困惑したという感想もあったようだ。

 それもそのはず、この原作をジャンル分けするのは難しく、敢えてするならSFで、主人公のアン・ウニョンはこの世に存在しないはずのものを見たり、感じたり、ときにはそれらと戦ったりと、一見かなりの不思議ワールドが展開するのだが、ドラマ化に際してその設定がたいした説明もなくずんずん進んでいくので、なんの情報もなくこの作品を見て、そこで起こっていることに「ついていけない…」と感じる視聴者が出てくることは意外ではない。ドラマ全体を通しても、SFなようなミステリーなようなファンタジーなような学園ドラマなようなオカルトなような…、と一言では説明できない独特な世界になっている。

 しかし、韓国文学において、今、SFというジャンルが一大ブームになっている現実と、その背景を知れば、このドラマが「今」作られた理由に深く納得できるだろう。

 日本でも大きな話題となり映画化もされたチョ・ナムジュ著『82年生まれ キム・ジヨン』は、フェミニズム文学として日韓問わず多くの女性から絶大な支持を得た。そしてそれ以降も韓国フェミニズム文学の盛り上がりはとどまる気配を見せず、傑作を輩出し続けていると個人的に思う。

 そんな中でSF小説もまた人気を取り戻し始めたのは、韓国の、特に現代女性たちにとって、<「SFは現実世界を転覆させるもの」という意識が、「SFはフェミニズム読者が要望する方向に世界そのものを転覆させようとする」>可能性へと広がり、わたしたちが要望する世界とはつまり女性や社会的弱者が抑圧されることのない世界を、現実でも文学でもそしてドラマでも、求め出した当然の結果なのである(河出書房新社「文藝」2020年冬号所収「現実を転覆させる文学」構成:住本麻子・取材翻訳:すんみ)。

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