菅首相の国会答弁に隠された「5つの詭弁」を読み解く

文=山崎雅弘
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 これほど手の込んだ、そしてたちの悪い「複合的詭弁」は、なかなか目にする機会がありません。しかも、それを口にしているのは政府トップの内閣総理大臣というのが、この国で今後も生き続けないといけない市民にとっては深刻な事態です。

 田村議員の質問は、本題に入る前の予備的な内容でしたが、実はもう答えが出ています。学術界で抗議の声が広がっている理由は、菅首相の行動が、理不尽だからです。

 しかし、菅首相としては、それを素直に答えるわけにはいかない。「それは、学者が私の態度を理不尽だと思っているからでしょう」とは言えない。質問に「まともに答えない」という態度をとるしかない。それで、苦肉の策として、田村議員に問われている論点を徹底的にはぐらかしつつ、「論理力」があまり強くないオーディエンス(観客、聴衆)を煙に巻いて逃亡できるような、一見もっともらしいが実は内容が空っぽで何も答えていないに等しい「詭弁」がひねり出されたというわけです。

 本来なら、首相や大臣がこんな詭弁を弄して質問をはぐらかし、首相や大臣に付与された権力に付随する説明責任を果たさない態度をとった時、政治報道に携わる報道人が、それを目ざとく見抜いて市民に知らせる必要があります。それが、民主主義国で政治に関わるジャーナリズムの重要な職務の一つです。

 もし、首相や大臣の言うことが詭弁まみれで、政治報道に携わる報道人がそれを見抜かないまま、詭弁を「正当な説明であるかのような体裁」で受け手に提示し続ければ、社会はどんなことになるでしょうか。

 その答えが、いまの日本社会の異様な姿だと思います。このひどい状況は、すぐには好転させられないでしょうが、社会を健全な方向に向かわせるために不可欠なポイントは何かと言えば、政治報道に携わる報道人と一般市民の両方が、自分の論理力を鍛えて、権力者が弄する詭弁を「これは詭弁だ」と見抜く力を持つことでしょう。

 次回以降も、人の思考を惑わせ、判断を狂わせる詭弁を取り上げていきます。皆で一緒に論理力を鍛え、社会を歩き回る詭弁という怪物を、一匹ずつ退治していきましょう。

(山崎雅弘)

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