違法アップロードの動画や漫画、見るだけでも処罰対象? 著作権法改正、一般ユーザーが気を付けたいこと

文=雪代すみれ
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GettyImagesより

 今年10月1日に著作権法の改正が一部施行され、リーチサイト対策及び写り込みの権利制限が変わった。また、来年1月1日には侵害コンテンツのダウンロードの違法化の対象の拡大が施行される。

 改正により海賊版対策はどこまで進んだのか。また、一般消費者が生活する上で気を付けることや、残された課題について、著作権問題に詳しい井奈波朋子弁護士に話を伺った。

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井奈波朋子
平成8年弁護士登録。平成29年8月より龍村法律事務所所属。著作権・商標権をはじめとする知的財産権、企業法務、家事事件を主に扱う。フランス語と英語に対応。著書に松嶋隆弘ほか編「インターネットビジネスの法務と実務」(三協法規出版)がある。 龍村法律事務所HP

著作権法改正により何が変わるのか

——著作権法の改正について、まずは10月1日から施行になった内容についてお伺いします。

井奈波朋子弁護士(以下、井奈波):ネットユーザーに関連が深いものとしては、リーチサイト対策が新たに導入されたことと、以前も著作権法に例外として規定されていた「写り込み」の対象範囲が拡大されたことが挙げられます。

まず、リーチサイトとは、簡単にいえば、<侵害コンテンツへのリンク情報等を集約したウェブサイト>を意味します。リーチサイトで有名となったものとして、2018年に話題となった「漫画村」(現在は閉鎖)がありますが、漫画村では約3,000億円分の出版物が無料で読まれたと考えられています。

リンクを張る行為は著作権侵害ではないため、リーチサイトに対して取り締まりができるかどうか、今までは法解釈が曖昧だったのですが、改正によって、新たに規定を設け、対策できるようになりました。

今後は、リーチサイトにリンクを提供する行為やリーチサイトを運営する行為は、著作権を侵害するものとみなされ、民事上および刑事上の責任を問えるようになります。ただし、刑事上の責任が問えるといっても、親告罪となっていますので、被害者の告訴が必要になります。

次に、写り込みについてですが、以前も著作権法に例外として規定されていたのですが、適法となる行為の範囲が広くなり、ネット社会のニーズに対応した改正になっています。

「写り込み」とはどういう場合かというと、例えば、テレビの生中継などで、たまたま背景に著作物が映ってしまうということがあります。従前の写り込みについての例外規定では、この場合には、著作権侵害になってしまうおそれがあったのです。しかし、このような場合に、著作権侵害になるというのでは、現在の社会実態に則しているとはいえません。そこで、今回の改正では、例外となる範囲を拡大しています。

改正前は、対象行為が、「写真の撮影」「録音」「録画」に限られていたところ、複製または伝達行為全般にも拡大されます。そのため、スクリーンショットや放送、生配信も対象に入ることになります。また、改正前は、著作物の創作に伴って複製する場合に限定されていましたが、今後は、創作性がない行為を行う場合でも、対象になります。さらに、改正前は、メインの被写体から分離困難な著作物の写り込みだけが対象でしたが、今後は、被写体が著作物を手に持って写真撮影など、分離が困難でないものも対象になります。また、濫用防止のため、「正当な範囲内」という要件も追加されています。

——では、来年1月1日に施行される内容はどのようなものなのでしょうか?

井奈波:ネットユーザーに関連が深いものとして、侵害コンテンツのダウンロードの違法化が挙げられます。改正前は、ダウンロードが違法とされる対象は音楽と映像に限られていましたが、改正後は、対象が漫画やコンピュータソフトなど著作物全般に拡大されます。ただ、違法となるのは、「違法にアップロードされたことを知りながらダウンロードする場合」のみとされています。また、スクリーンショットの写り込み・漫画の数コマなど軽微なもの・二次創作は規制対象から外れています。

一般消費者が気を付けることは?

——著作権法が改正されるにあたり、一般消費者はどういったことに気を付ければいいのでしょうか。

井奈波:まずリーチサイト対策については、つまり一般消費者の方は、よほど悪質なことをしない限り違反することは考えにくいのではないでしょうか。リーチサイトは、①「公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するもの」②「主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられるもの」なので、一般的な掲示板やSNS、ブログなどに、リンクを張る行為は問題になりません。ただし、SNSやブログでも著作権侵害コンテンツへのリンクばかりを掲載しているようなものは、リーチサイトとみなされる場合があるので、注意が必要です。この場合でも、リンク先が違法コンテンツであることを知っている場合にリンクを張った場合にしか、問題になりません。

リーチサイトに侵害コンテンツのリンクを上げることは簡単にできてしまうので、中高生が軽い気持ちで、違法コンテンツであると分かっているのに、リーチサイトにリンクを貼ってしまわないかは心配です。

——写り込みについては、ネット環境に適した改正になったとのことですが、その中でも気を付けるポイントはありますか。

井奈波:対象範囲は拡大しましたが、写り込みに該当しないと違反行為になるおそれがあります。写り込みとして許されるのは、複製や伝達行為を行うにあたって、対象に「付随」する著作物の利用です。例えば、今、会議室に絵が飾ってありますが、こういった会議室で私の写真を撮ったときに、背景の絵画が写り込んでしまうことがあります。これは「付随」に該当するのですが、この絵画をメインで撮影してはいけないということです。

——ダウンロードの違法化についてはいかがでしょうか。

井奈波:一般の方が侵害コンテンツをダウンロードしてしまったときに、ただちに違法となるわけではありません。侵害コンテンツをダウンロードする際に、違法にアップロードされたものであることを知っていた場合しか違法になりませんし、知っていたかどうかを立証するのは困難です。何件もダウンロードしたり、ダウンロードしたものを売ったりし、違法にアップロードされたものを知ってダウンロードしたのではないか、と権利者から疑われ、警告されたのにダウンロードを続けている場合には、故意であるとして、取り締まりの対象になるのではないかと考えます。

——今回の改正で問題点があれば教えてください。

井奈波:リーチサイト対策の部分で、一般の著作権侵害よりも罰則が軽いことです。

一般の著作権侵害の罰則は、「10年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金」で、それが併科されることがあります。これに対して、リーチサイトのサイト運営者は「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金」で、それが併科されることがあり、リーチサイトにリンクを提供した者は、「3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金」で、それが併科されることがあります。

リーチサイトの運営者は、侵害コンテンツへのリンクを集め、広告料等で収入を得ていると考えられます。そのため、見方によっては侵害コンテンツをアップロードして著作権を侵害した人よりも悪質とも言えるわけで、その部分のバランスに疑問を感じます。しかし、リーチサイト対策は、みなし侵害という法律の枠組での取り締まりとなるので、やむを得ないのかもしれません。

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