調子に乗ることもサボることも許せるようになってきた/『へんしん不要』著者・餅井アンナさんインタビュー

文=山本ぽてと
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『へんしん不要』(タバブックス)

仕事が終わってないのにご飯食べていいのかな

――その乗りこなし方の工夫について聞きたいです。調子がいい時は、どうするんですか。

餅井 周りの人に「いま、調子のってませんか?」って聞く。

――おお。

餅井 同居人はわりと正確に「躁じゃないかと気にしている状態は、躁じゃないから大丈夫」と言ってくれます。まだそこまでじゃないけど、ちょっと明日は休んだ方がいいかもね、とかも。そういうとき、すごく気持ちは外に出かけていきたいけど、心を鬼にして。外に出ない。

――「自分のことがどうでもよくなるムーブ」に押し流されないという章で、「自分の手が届くところにおいしいものを用意しておくこと」という工夫について書いていましたね。

餅井 食べることに対して罪悪感があって。例えば仕事が忙しいときに、仕事が終わってないのに、ご飯食べていいのかなって。こんなに進んでいないのに、いまオヤツタイムをとっていいのだろうかとか。充分な働きが出来ていないときは、苦しんでいなければいけない、みたいな。罰せられてないといけないんじゃないかという気持ちがあったんです。

でも友達が同じ状態だったら、「仕事進んでいないのに、オヤツ食べちゃダメだよ」とか絶対に言わないですよね。なのに自分に対してはそういう罰し方をしてしまっていて。自罰行為をやめるための訓練として、食べやすいものを周りに散らしておく。チョコパイとか、ぶどうとか、小さくて固いパン。

ちなみにTwitterとかで今日原稿進んでいないのに、「飲みにきちゃった」と書く文筆業の人を見ていると、自分のことのように心臓が……(笑)。

――SNSで言う必要ないですもんね(笑)。

餅井 表に出しちゃいけないことと、思ったりしてはいけないことの区別が曖昧で。最近の私の基準では表に出してはダメだけど、隠れてやる分にはいいかなと。思う分には私の自由だなと考えるようになりました。

いま週に3回アルバイトをしているのですが、給湯室で飲み物をつくってくつろいだり、オフィスからときどき脱走したり、いい感じでサボれるようになったんです(笑)。

――たくましい(笑)。

餅井 昔はもっと「時給以上の働きをしなければ」「会社の人の役に立たなければ」みたいな気負いがあったんですけど。バイトなのに……。いまは怒られはしないけれども、そんなに褒められたりもしない適当なアルバイトとして働いています。

虚弱ではなく、技術を売る

――そうした変化のきっかけはあったのでしょうか。

餅井 決定的に何かが変わるイベントはなく、やっぱり慣れなんじゃないかと思います。たぶん、2018年の私に「ベクトルを外に向けよう」と言っても無理でした。その当時、「海外旅行に行かないの?」と聞かれたことがあって、「箱根が限界です」と答えていました。具合が悪くなるのが怖かった。でも今は「海外か、いいな」っていう気持ちがあって、それはベクトルが外に向いたことのあらわれでもある気がします。

――さきほど「虚弱キャラ」で行かなきゃいけないと思っていたと話をしていましたが、そうしたキャラを求められていた部分はありますか。

餅井 ライターとしてですよね。本当はそんなことはないのですが、私は求められているような気がしていました。でも虚弱とか精神的な波があるからといって、それを自分のキャリアの軸にするのは難しいかなと。

それを自分のアイデンティティにしても危ない。自分の虚弱なキャラで人を殴ってしまったらどうしようとも考えた。どこかで無理が来るだろうなと思いました。

そういう「生きづらさ」みたいなパッケージが危ういのではないか、という話を同業の人にしたときに、「餅井さんは、虚弱じゃなくても文章書けるから大丈夫」と言ってもらって、自信がついた部分もあります。

文章を褒めてもらう時も、内容ではなく、文章が読みやすいと褒めてくださる方もいて。その中で、内容やテーマ、パッケージも大事だけれども、ライターとして売りにした方がいいのは技術なんじゃないかって思いました。まだまだですけど。

――自分の虚弱さではなく、技術を売ろうと。いいですね。

餅井 テーマ性とか、誰がなにを書いたのかが重要視されすぎだと思うようになった。そういう気持ちが、文章で人の気持ちに訴えることがおこがましいなという考えと同時進行で起こりました。

中身にいいことが書いてあるだけじゃなくて、読みやすい文章がその場で読めるということが、実は役に立つんじゃないかと思ったんです。

寝れなくて嫌なことばかり考えてしまうとか、今日は朝まで自分を害さずにいられるだろうか、といった時に、スマホの文章や本を読んで乗り切るみたいな夜がある。そこではたぶん内容はそこまで大事ではなくて、文字に集中することで、一晩なんとか乗り切れるんですよね。

だから『へんしん不要』では、伝えるための力があるものではなくて、編み物をしてて気持ちいいみたいな、ちゃんと編めるかどうかはおいといて、いま編み物していること自体が楽しいみたいな。なんか、うまく言えないんですけど、そんな文章を目指しました。
(聞き手・構成/山本ぽてと)

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