「まだ穀物食べてるの!?」「まだ肉なんか食べてるの?」広く浅く浸透する罪深きフードファディズム

文=山田ノジル
【この記事のキーワード】
「まだ穀物食べてるの!?」「まだ肉なんか食べてるの?」広く浅く浸透する罪深きフードファディズムの画像1

GettyImagesより

「食べもので健康になる」「体は食べたものでできている」

 巷でよく見かけるありふれたこの手の言葉。さほど疑問を持たずに受け入れられがちですが、深みにハマると食べ物の効果を過剰に期待しすぎる「フードファディズム(別名みのもんた症候群)」という次元へ突入します。

 この食品で癌が治る、コロナ対策に免疫アップ、酵素の力でダイエットetc. 爽やかな笑顔で語られる体験談とセットで広められるそれらを見ていると「オッタマゲ~!」なる限界突破ソング(氷川きよしVer.)を口ずさみたくなります。その手の記事を積極的にシェアする人は総じてヤバめ。健康・環境・社会という3大意識が高い系を通り越し、陰謀論や選民思想という沼深い世界へ浸かっている率も高く、その世界観たるやもはや異次元です。

 そんな罪深きフードファディズムは、専門家風(もしくは変わった医師)の人が教祖となり、広く浅く広められていきます。その手口は日本独自のものは少なく、ほとんどが海外のやり口が輸入されたものでしょう。

 そういった現象を詳しく知ることができるのが、食の疑似科学の歴史をひも解く『さらば健康神話 フードファディズムの罠』(アラン・レヴィノビッツ著・地人書館)です。

 これを翻訳し、日本の読者に届けてくれたのは、超常現象の懐疑的な調査を目的に活動する団体「ASIOS」に所属するナカイサヤカ氏。ナカイ氏がこれまで翻訳を手がけた本はいずれも疑似科学バスター必読の書ばかり。『反ワクチン運動の真実 』『代替医療の光と闇』(いずれも同社発行)と同様、同書も質・ボリュームともに読み応え抜群です。

 今回のトンデモバスター本で特筆すべきは、巷で幅をきかせる食事法の数々を「科学的根拠なし!」と斬りまくる著者、アラン氏の肩書が「宗教学者」である点です。氏曰く、フードファディズムを理解し、正体を暴くのは科学ではなく歴史。フードファディズムの成り立ちを観察すると「食事療法の主張が、洪水神話にとてもよく似たものだ」と語られています。

 洪水神話とは、キリスト教徒でなくても、世界中で知られている神話「ノアの箱舟」のこと。堕落した人間に愛想をつかした神が「汚物は消毒ぅ!」と洪水を計画するが、信心深いノア一家と選ばれし生き物だけが事前に箱舟に乗り、生き残ることができた……という説話です。

 実際には古代に洪水が起こったという歴史はないのですが、似たパターンの神話が世界中の様々な国・時代で語られているよう。それは「神罰と世界の浄化」という暗喩を、神話のパワーで人々に刷り込むというテンプレがあるということです。そしてこのやり口がフードファディズムにも応用されていて、その源流は中国の道教に見られると言います。

 2000年前の中国では「穀物」が文明の象徴だった(野生の食物を採取する生活から、農業を受け入れることが文明人である、ということですね)。ところがある時、道教の元となる教団の少数の道士たちが、この五穀をディスり出した。「まだ穀物食べてるの!?」と、五穀断ちを推し、農業以前の食生活を取り入れた自分たちの食事法を実践すれば御利益が得られまっせ(若さや長寿、超能力までが!)と布教されたのです。しかしその後、食習慣の変化で五穀から肉食が重要視されるようになっていくと、道士たちは「まだ肉なんか食べてるの?」にクラスチェンジ。ところが、楽園(農業前の生活)に帰還すれば病気や苦しみから逃れられる……なる御利益はそのまんまだったとか。

 五穀と肉、全然違うじゃん。チンプンカンプンは慣れっこダイ!……ではなく、解せぬ。しかしマジョリティをディスり情弱扱いという過激発言で支持者を集める炎上商法は昔からあったのか~と、冒頭からついつい笑いが漏れてしまうのでした。

 こうした「現状の否定+古い時代(楽園)への回帰=病気や苦しみから逃れる救済への道!」というテンプレを導きだしつつ、グルテンフリーや脂肪、砂糖、塩にまつわる健康法の種明かしが、怒涛のごとく展開されていきます。

 ああ日本でもあるなあ、過去の楽園神話。江戸時代には癌も自閉症もなかった! 当時の食生活が日本人にとって理想的。食べ物含めた現代のライフスタイルがぜーーーんぶ悪いんだもん! ってヤツ。

 同書を読むと、改めてもこれらは全く論理的ではなく、呪術的思考であることがイヤというほど理解できます。さらに「食べているものを否定することは、優秀なグループのメンバーであるという優越感もくすぐる」などの心理面も端々で語られていて、これもあるあるぅと頷きっぱなし。

 現代の奇抜な食事療法は科学的な語り口で広められるものの、根っこを掘り起こせば実にオカルト的。病気が悪魔のせいだと思われていた時代、聖水で大儲けしたエクソシストたちがいた時代から対して進化していないんですね(トンデモ栄養士などは、現代のエクソシストってことか~)。

1 2

「「まだ穀物食べてるの!?」「まだ肉なんか食べてるの?」広く浅く浸透する罪深きフードファディズム」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。