日韓で140万部のベストセラー『私は私のままで生きることにした』著者キム・スヒョンが語る「雑草に覆いつくされない心構え」

文=山本ぽてと
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 2020年11月28、29日にオンラインで行われた「K-BOOKフェスティバル」では、作家や翻訳家、デザイナー、編集者らが集まり、2日間で13のイベントが開催され、K-BOOKの魅力を存分に語り合った。

 初日の最後を飾るイベントとして、『私は私のままで生きることにした』(吉川南訳、ワニブックス)のキム・スヒョンさんが登壇。聞き手として、韓国で留学・就職をしている韓国ブロガー&YouTuberのこりあゆさん、ゆうきさんこと稲川右樹准教授が参加した。

パワハラに抵抗できなかった悔しさ

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キム・スヒョン著、吉川南訳 『私は私のままで生きることにした』(ワニブックス)

 キム・スヒョン著『私は私のままで生きることにした』は、韓国で100万部、日本でも40万部を突破したイラストエッセイだ。

 大ヒットのきっかけは、意外なものだった。韓国の人気アイドルたちが動画を発信するV LIVE。自宅で配信していたBTSのJUNG KOOKの足元に『私は私のままで生きることにした』が映りこんだ。

 この動画がきっかけで、彼の愛読書としてこの本は注目を集めることになる。とはいえ、20代、30代の若者を中心に大きな支持を得たのは、単にそれだけの理由ではないだろう。競争社会がもたらす若者の「生きづらさ」に、やさしいイラストと芯のある言葉で寄り添ったからこそだ。

 著者のキム・スヒョンさんは作家でイラストレーター。『私は私のままで生きることにした』を書いた時は20代後半で、韓国で就職活動をしていた。それまでにエッセイの著作が数冊あったが、「他の人たちのように就職しなければならないと強く思っていた」という。

 就職活動では、履歴書の段階でずいぶんと落とされた。なんとか面接に行っても、文筆活動の経験は良い評価に繋がらず、「あなたはずっとこの会社で勤め上げない気がする」と言われたこともある。自分のことがみじめに感じられ、「人生間違えたのかなぁという気持ちになった」と話す。

キム「無駄なことばかりしていたのかな、という気持ちになったんです。自分を責めたりもしていた。でも人生にはそういう試行錯誤が本来は必要なのではないかと考えるようになった。もっと自分のことを信じよう、社会的な視点や周りの目を気にするよりも、自分らしく、そのままの自分で生きていこうと決心し、この本を書くようになりました」

 執筆をしたのは、意外な場所だ。同じアパートに住むダンス教室の先生と親しくなり、使用していないときのスタジオを自由に使っていいことになった。窓の外に木々が見えることが、執筆の支えになったという。

 こうして書かれた『私は私のままで生きることにした』には、まさに著者の経験から生まれた実感のこもった言葉が並ぶ。

 大学卒業後にインターンをしていたキムさんは、部署の主任にパワハラを受ける。しかしどう振舞ったらいいのかわからず、「いちばん下の立場だ」と思いながら日々を過ごしていた。インターンを終えてかなりの月日が経ったある夜、その当時のことを思い出して、なぜ抵抗できなかったのだと悔しく思う。

”パワハラとは、
人を人とも思わない
愚かな人間と、
人としての最低限の扱いすら
求めようとしない
無力な人間とのコラボレーション”
(『私は私のままで生きることにした』より引用)

フェイクニュースに人生を支配される必要はない

 こりあゆさんはそうした言葉の数々に励まされたひとりだ。1993年日本生まれ。16歳のころに韓国語を独学で学び始め、高校卒業後18歳で渡韓する。韓国の大学を卒業し、韓国のベンチャー企業で働くかたわら、YouTuberやブロガーとして活動している。彼女が注目したのがこの一文だ。

”結婚してる? 仕事は? 恋人は? 貯金は?
こうした質問を不都合だと思うなら、それはあなたの勘違い。
本当は、質問自体が不都合なのではない。
その質問によって下される、他人の判断が不都合なのだ。”
(同書より引用)

 こりあゆさんが「精神的にブレそうな時は、どうやって自分を保っているのか?」と聞くと、キムさんは「自分の中に判断の主導権を持つ」と答えた。

 例えば、こんなことがあったという。キムさんが本を書いている時、母親の知り合いから「娘さんは、もっと現実を見つめるように、しっかり正気を保つように、早く就職をしろ」とアドバイスを受けた。一度は気分を害したキムさんだが、冷静にもう一度言葉の意味を考えてみた。

キム「他人に一方的に判断されたり、理解されなかったりした状況が生じたときは、その中に本当に真実があるのかを覗き込むようにしている。真実があれば、自分自身にとってもその言葉が変化につながるひとつのきっかけになると思っているし、しっかり覗き込んだけれども真実ではないとしたら、それはフェイクニュースに自分の人生が支配されるようなものです。そんなふうに生きていく必要はない」

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