大坂なおみとエメット・ティル〜顔が分からなくなるほど殴られ、殺された黒人少年

文=堂本かおる
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わずか2秒で射殺された12歳

 大坂選手は9月のU.S.オープンで7枚の異なるマスクを着けた。それぞれに警察、または警察に憧れた愚かな人間によって殺害された黒人の名前が記されていた。

 その中の一人、「トレイヴォン・マーティン」は2012年、コンビニ帰りに「怪しい」という理由で射殺された17歳の高校生だ。当時、大坂選手は14歳だったが、「トレイヴォンの死をはっきりと覚えている」と語っている。まだ子供だった大坂選手だが、黒人であれば子供であっても殺されるという現実に強い衝撃を受けたのだった。

 同じくマスクに書かれた「タミア・ライス」は、オハイオ州に住む12歳の少年だった。2014年、公園で玩具の銃を手にして遊んでいたところを通報され、警官が駆け付けた。警官はパトカーを降りると、わずか2秒でタミアを撃ち殺した。

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トレイヴォン・マーティン

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タミア・ライス

14歳に死刑を求めたトランプ

 ネットフリックス『ボクらを見る目』(2019、原題:When They See Us)は、1989年にニューヨークで起こった事件のドラマ化作品だ。冒頭に当時、実業家であったドナルド・トランプの映像が挟まれている。トランプは誤認逮捕されたハーレムの5人の少年に死刑を求めていたのだ。

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大坂なおみとエメット・ティル〜顔が分からなくなるほど殴られ、殺された黒人少年の画像2 ウェジー 2019.06.06

 夜半にセントラルパークをジョギングしていた白人女性が何者かに激しく殴打、レイプされ、瀕死の重傷を負った。当夜、セントラルパークにいた5人の黒人とラティーノ少年が逮捕された。自白を強要されて有罪となり、14歳と15歳の4人は6~7年の刑、16歳は成人として裁かれて13年の刑となった。

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Netflixより

 事件からわずか20日後、つまり有罪判決はおろか、裁判すら始まらないうちにトランプは巨大なフォントで「死刑を取り戻せ。我々の警察を取り戻せ!」と書いた一面広告をニューヨークの4つの新聞に自費で出稿した。ニューヨーク州ではすでに死刑が廃止されていたからだ。

 後に多数の女性から性的嫌がらせやレイプで訴えられたトランプだが、黒人が白人女性をレイプしたとなれば、それが14歳の子供であっても殺してしまえとなったのだ。19世紀に白人女性を襲ったかどで黒人男性を木に吊るしてリンチ殺害していた白人たちとトランプに、違いは果たしてあるのだろうか。

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BLMが生まれた理由

 エメット・ティルが小屋で拷問を受けている時に通りかかった人物が、エメットの声を聞いたと語っている。「ママ、お願いだから助けて」「お願い、神様、もう止めて」

 14歳の子供が、2人の成人男性から数時間も殴る、蹴る、ナイフで刻まれるといった拷問を受けたのだ。その時のエメットの身体的苦痛と恐怖はいかほどだっただろうか。遺体が発見された時、都会育ちのエメットを黒人差別の激しいミシシッピの田舎に行かせた母親の後悔の念はどれほどだったのだろうか。

 今月4日、オハイオ州にて黒人男性ケイシー・グッドソンJr.(23)が保安官に射殺された。目撃者がおらず、かつ保安官はボディカメラを配備されていなかったため全容は不明だが、細切れの情報が報じられている。ケイシーは歯科医からの帰途、サンドイッチを買って帰宅。暴力逃亡犯捜索班の保安官との会話、もしくは口論が起こったが、ケイシーに犯罪歴はなく、保安官が探していたのは別人だった。ケイシーは合法所持の銃を携帯していた。保安官はケイシーが銃を向けてきたと主張している。

 ケイシーは自宅のドアを開けようと鍵穴に鍵を差し込んだ時に撃たれた。ケイシーはドアを開け、台所の床に倒れた。鍵は鍵穴に刺さったまま。そこへ室内から祖母と、ケイシーの5歳の弟がやってきた。

 5歳の男児が、射殺された兄の姿を見てしまったのだ。

 この事件ではケイシーに非があるようには思えない。ケイシーが黒人でなければ起こらなかった事件に思える。ケイシーの罪は黒人であったことだ。その罪の余波を、まだ5歳の子供が受けてしまった。5歳児もまた黒人であったからこそ、一生消えないトラウマを植え付けられてしまった。

 エメット・ティルがもし生きていれば79歳だ。キャロリン・ブライアントの夫と、その兄はすでに他界しているが、キャロリンは86歳でまだ生きている。

 セントラルパーク5の5人は今では「Exonerated 5 (無罪となった5人)」と呼ばれており、全員が40代となっている。

 トレイヴォン・マーティンが生きていれば25歳。もう高校生ではなく、仕事をしていただろう。タミア・ライスは18歳。中学から高校に進学し、今年の夏に卒業していたはずだ。ケイシー・グッドソンJr. は23歳だった。その弟は5歳。

 トレイヴォンの死と共にBlack Lives Matterが生まれ、今年、コロナ禍にもかかわらず全米で抗議運動が続いたのは、黒人が北米に初めて連行されて以来400年間続く凄惨な歴史の連鎖を終わらせるためだ。今、オハイオ州ではケイシー・グッドソンJr.事件をめぐるBLM運動が始まっている。
(堂本かおる)

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