ある東大男子にとっての「恋愛」。母校の講演で後輩たちに「お前ら恋愛しとけ!」と熱弁

文=清田隆之
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(※本稿の初出は『yomyom vol.65』(新潮社)です)

【一般男性と呼ばれた男】

 恋バナ収集ユニット「桃山商事」の一員としてこれまで1200人以上の恋愛相談に耳を傾けてきた清田隆之さんが、「一般男性」にインタビューをし、彼らが何を感じ、どんなことを考えながら生きているのか、彼らの声にじっくり耳を傾けていく「yomyom」の連載。

 学歴社会のトップである東京大学の4年生・有村悠人さん(仮名)の、大学入学までを聞いた前編。後編では有村さんの恋愛観について掘り下げています。

思春期に恋愛感情を抱いた3人の女子

 大学生になって一番やりたかったのが恋愛でした。思春期のほとんどを勉強に捧げてきたので、個人的にめちゃくちゃ興味があって。恋愛のことを語るためには高校生のときに思いを寄せた3人の女子の話を避けては通れないんですが、ここでは仮にA子さん、B子さん、C子さんとしますね。

 A子さんは同じクラスだった人で、元々「気にはなってるけど仲良しってわけでもない」という間柄でした。ある日の放課後、教室に残って勉強をしていたら、いつの間にか彼女と二人きりになっていたんですね。それでなんとなく雑談が始まって、受験のこととか趣味のこととか話していたら、すごく会話が盛り上がって。同じアニメが好きだったり、育ってきた家庭環境がちょっと似ていたり。そのまま日が暮れるまで3時間くらい喋っていて、距離が一気に縮まった感じがありました。

 ただ、正直ドキドキしたし、気持ちも急上昇したんですが、一方で「ここで恋愛にのめり込んでしまうと勉強が手につかなくなる」という危惧もあって……。結局はその感情を抑える方向に走ってしまったんですよね。だからA子さんは自分の中で「好きじゃないということにした人」という位置づけになっています。

 その恋愛感情を中和するために、ある意味で〝利用〟してしまったのがB子さんでした。彼女とは委員会の仲間で、学校行事の準備や打ち合わせを一緒に進める中で心の距離が縮まっていきました。仕事はテキパキしているし、会議でもしっかり自分の意見を主張する人で、すごくカッコいいなと思って惹かれ始めて。A子さんに対する恋愛感情が先に膨らんでいたことは確かなんですが、B子さんへの思いも少しずつ募っていって、気持ち的な比率は70対30くらいの割合でした。

 でも、このまま恋愛の比重が高まっていくのはヤバいなって思い、B子さんへの気持ちを盛り上げることで相対的にA子さんに対する思いを下げ、全体的にクールダウンさせる方向に持っていこうと考えました。それで必死に自己暗示をかけ、結果的に35対35くらいのところで落ち着けることができた。これによって恋愛に気持ちが持っていかれることはなくなり、再び勉強に集中することができました。だからB子さんは「好きということにした人」という位置づけなんです。

 そしてもう一人のC子さんはずっと同じクラスだった女友達で、フィーリングが合ってすごく仲も良くて、きっかけひとつあれば恋愛関係に発展してもおかしくない間柄でした。先にA子さんとの急接近があったのでC子さんとは何も起こらなかったわけですが、正直に言えば彼女のほうがA子さんよりルックスもスペックも上だったので、常に気になる存在ではあった。ホント、恋愛って偶然とかタイミングに左右されるものですよね。そういう意味でC子さんは、僕の中で「好きになりたかった人」という位置づけになっています。

 好きじゃないということにした人、好きということにした人、好きになりたかった人──。なぜこの3人が重要なのかと言うと、「ちゃんと向き合っていれば恋人になっていただろうな」という思いが残っているからなんですね。

 実際、A子さんとは高3で別のクラスになってしまったんですが、久しぶりに会って話したときに「あのとき好きな人がいたんだ」って言われて。多分それ、僕なんですよね。またB子さんとは、成人式のときに久しぶりに再会して一緒に飲むことになって、「あのとき好きだったんだよね」と伝えたら「実は私も」って言われまして。

 確かに当時、僕は彼女からの気持ちを感じ取っていたように思います。しかもC子さんからも同じような視線を感じていて、多分彼女ともちゃんと向き合えば両想いになれる可能性があった。だから後悔しているんです。

 しかも一浪して、絶対に落ちるわけないって自信を持って東大に合格したわけじゃないですか。それを思うと、「1年間必死に勉強すれば東大に受かったわけで、だったら現役時代はもっと恋愛しとくべきだったんじゃね?」って思えてきて……後悔はなおさらでしたね。東大合格者として母校の講演に招かれたとき、後輩たちの前で思わず「お前ら恋愛しとけ!」と熱弁をふるってしまったほどです(笑)。

別れた翌日に溢れ出てきた感謝の気持ち

 でも、大学生になって最初のほうの恋愛は褒められたものではありませんでした。サークルで知り合った女子と適当に付き合い、やることだけやってすぐに別れるというパターンを2回ほどくり返してしまいまして。童貞を捨てることはできたけど、正直それだけというか、単にセックスの経験値を得ただけの恋愛だった。

 その次に付き合ったのは年上のD子さんで、予備校時代のチューターだった人なんです。さっき言った意識高い交流会がきっかけで偶然につながって、彼女はもう社会人でしたけど二人で昼メシに行ったりという中で段々と距離が近づきました。実は、彼女はその時点で別の男性ともお付き合いしていたんです。その男性は結婚している人で、つまり不倫なんですけど、男性が海外に転勤になってしまったこともあって、もうその関係は清算したいと望んでいました。彼女の部屋にも男性の気配は残ってなかったです、本当に。

 なんだか年上と付き合うのがうれしくて、当時わりと親しかった友人を連れて彼女の部屋に行き、D子さんがそいつにコーヒーを淹れてくれるのを悦に入って眺めたりしてました(笑)。それと彼女はいろいろ生きづらさを抱えた人で、精神的に不安定なところがありました。それで僕のほうが気を配るべきだと考え、メンタルケアについて本を読んで勉強なんかもしていました。

 正確に言えば僕は〝二股の片方〟だったわけですが、交際はしばらく順調に続いていました。それでもやっぱり違和感を抱く部分はあって、それは彼女の恋愛経験でした。過去の話をいろいろ聞く中で10人程度と交際または肉体関係を持ってきたことがわかったんですね。それは話の時系列や人物描写の特徴などから割り出した数値なんですが、「この人とこの人は違う男性だな」「この人の次にこの人と付き合ったんだな」という感じで情報の断片をつなぎ合わせた結果なので、おそらくほとんどズレはないはず。

 で、その数字が僕にはちょっと多いように感じられたんですよね。初めて一緒にラブホテルへ行ったときも、フロントでの手続きがやたらスムーズだったり、部屋に入ってソファに腰かけてスマホを充電するまでの動作が手慣れすぎていたり、備品の位置や電気のスイッチを完璧に把握していたりと、ちょっとした仕草から経験値の多さを感じ取ってしまい……理性では仕方ないことだとわかりつつも、彼女の〝状況をコントロールしてる感〟にどうしても引っかかるものを感じてしまった。

 20代半ばで10人以上と経験してるというのは必ずしも悪いことではないけれど、正直「どうして自分のことを大切にしないんだろう?」って思ってしまうんですよね。例えば東大生って青春時代を勉強オンリーで生きてきた人ばかりだから、入学時はほとんど全員が童貞と処女なんですよ。僕の高校の経験済み率が10%くらいだとしたら、開成なんかはもっと低いはずですし。それから恋愛が始まってセックスとかも経験すると思うんですが、付き合って別れてというサイクルには2年くらいかかるはずで。だから計算すると卒業までに経験人数は2人か3人くらいで、20代半ばまで引き延ばしても4〜5人がせいぜいってとこだと思うんです。だから彼女みたいな「回転数の高い人」の貞操観念にびっくりして、もっと自分を大切にしたらいいのにって、つい思ってしまう。

 もっともそれが原因というわけではありませんが、D子さんとの交際は結局1年ちょっとで終わりを迎えました。言ってしまえば小さなすれ違いが積み重なってという感じなんですが、やはり社会人と学生の恋愛には難しいところがあって、例えば「会えない?」って僕からの連絡に対し、彼女は「仕事が忙しくて難しい」「LINEの頻度をもっと減らして」「もっとこっちの気持ちも考えて欲しい」って感情的な返信をしてきたりで。それで最後はもう無理だねって話になり、お別れすることになりました。

 彼女はさみしさを埋めるため、僕は好奇心を満たすためと、お互い利用し合っていた部分もあったと思います。それでも僕にとっては最も長く交際した相手だったので、さみしい気持ちがないわけではなかった。でも、別れた日の翌朝にわいてきたのは彼女に対する感謝の気持ちだったんですよね。確かに感情的なぶつかり合いも多かったし、精神的に不安定な彼女に振り回されっぱなしの1年間だったけど、いろんな経験ができたし、女友達から「有村くん丸くなったね」って言われるくらい人間的にも成長させてもらいました。そういう諸々から感謝の気持ちが溢れてきて、自分しかいない部屋でひとり深々と頭を下げながら、遠くにいる彼女に対して「ありがとうございました!」と叫びました。あそこまで深く頭を下げることはこの先の人生でもおそらくないと思います(笑)。

 D子さんと別れたあと、自分の中の処女信仰を捨てようとマッチングアプリで知り合った女の子と少し付き合ったんですが、僕が初体験だった彼女との交際が重たく感じられるようになってしまい、それほど長く付き合うことなくお別れしました。

 僕はこれまで4人の女性と肉体関係を持ちましたが、正直セックスって程度の問題でしかなくて、ルックスがいいとか胸が大きいとか、それぞれ数値の違いはもちろんあるんだけど、基本的にやることは一緒だな、そういうのはもういいかなって、なんかお腹いっぱいな気持ちになってしまったんですよね。

 そんな中で抱いているのは、高校生のときのようなピュアな恋愛がしたいなって思いで。結局大学生になって以降、あのときみたいにちゃんと人を好きになれていないんですよ。またああいう恋愛がしたいなと思いつつ、今はコロナのこともあるので大人しく暮らしています。このあとちゃんとした恋愛をするためいったんお休み期間を設けているという感じですかね(笑)。来年の4月からは外資系で働くことが決まっています。早く子どもを作って仕事に専念したいという思いもあり、結婚も視野に入れています。だから次の恋愛で最後にしたいなって。

(※本稿の初出は『yomyom vol.65』(新潮社)です)

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