
山本尚『日本人は論理的でなくていい』(産経新聞出版)
「日本人」のつくりかた(第1回)
「日本人」なんて言われても、総理大臣から放火魔・詐欺師・痴漢まで、さまざまな人びとが含まれる漠然とした大きな集合です。日常生活で「日本人とは……」なんて語り始める人は、いろんな人がいる巨大な集合をものすごく単純化してしまっているわけで、社会を認識するしかたがなんかヤバそうなことがわかるから、会話からそっと逃げだします。
けれども、新聞や出版物やネット言論の世界では、「日本人」を熱く語ってしまう人がなんと多いことでしょう。とくにこの20年ほど、「“日本人”のあるべき姿はこうだっ!」と言いたい政治家や文化人が増えています。他人様によくわからぬモノサシをあてはめやがって、大きなお世話だよ……と思うのですが、これが「愛国心」という情熱がもたらすアツさなのか、そうした言説はなかなかなくなりません。
この連載「「日本人」のつくりかた」では、さまざまな領域で展開される〈日本人は**であるべきだ〉言説を、生暖かく考察していきます。
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思いつき的「日本文化」論が多すぎる
専門分野ではそれなりの業績をあげたすぐれた学者が、ふとしたはずみに専門外の領域について語り始めると、唖然とするほど凡庸で思い込みに満ちた「文明論」「文化論」を語ってしまうことがよくあります。
こうした〈思いつき的怪しい日本文化論〉は、少し目を凝らしてみれば世の中にたくさん転がっています。そこで今回は、山本尚(中部大学教授)著『日本人は論理的でなくていい』(産経新聞出版、2020年10月2日発行)をとりあげてみましょう。
日本人の民族性?
本書は、日本人の民族性は「内向型で感覚型でフィーリング型(気持ち型)」であると規定し、その世界でも類を見ない「民族性」を活かして、独自の「ブレイクスルー」や「破壊的イノベーション」を目指そう――という内容です。タイトルになっている「日本人は論理的でなくていい」とは、日本人は「感覚型でフィーリング型」で「論理的に考えるのが苦手」。だから、むりやり論理的になろうとしなくていいんだよ、ということのようです。
山本尚氏は1943年生まれ。本書のプロフィールによれば、京都大学工学部工業化学科を卒業したのち、ハーバード大学大学院化学科博士課程を修了しています。日本に帰国して京都大学工学部助手をふりだしに、ハワイ大学准教授、名古屋大学助教授・教授、シカゴ大学教授などを歴任したそうです。日本化学会の会長もつとめ、2017年に「有機化学で最も権威ある「ロジャー・アダムス賞」受賞」とプロフィールにありますから、本書の帯にある宣伝文句どおり「山本先生は世界が認めるトップ科学者」なのでしょう。
第一線の化学研究者ならではの海外の大学での苦労話や、ノーベル賞を受賞した先輩たちのエピソードが盛り込まれ、「フィーリング型」の日本人であるからこそ「科学技術の発展に有利な側面」があり、「日本人の独特の民族性を100%活かすことで、人生の様々な競争に勝つことができ、今後の展開が変わってくる」――と呼びかけられている本なのでした。