
GettyImagesより
あるネットメディアで、「あなたがドン引きする30代以上の女性の冬ファッションを教えてください」というアンケートが実施されていました。
アンケート結果によると、冬なのにミニスカや、ぽっちゃりさんのニットワンピ、おばちゃんぽく見えるレギンス、ド派手な毛皮のコートなどが、「ドン引き」だそうです。
また、別のあるメディアでは、おしゃれ度が高すぎるファッション、ブランド品で固めたファッション、ぴちぴちでボディーラインが強調されたファッション、年齢にミスマッチのファッションは、男性にとって「(デートで連れて歩くには)罰ゲーム並の恥ずかしさ」であり、ゆえにNGです、と言い切っていました。
どちらも女性向けメディアが、比較的最近(2019年と2020年)掲載した記事です。
「うるせえ!好きな服着させろ!」と思うのは私だけではないでしょう。
「女性たちがジャッジされることがありませんように」と祈る本
「うるせえ!好きな服着させろ!」と思うなら、好きなように好きな服を着ればよいのですが、私自身は、いかんせん小市民なので、周囲の視線も気になったりします。
大好きなミニスカートを履きながらも、ふと「何歳までミニスカート履いていいのだろう」と思ったり、かわいい服を見つけても「派手すぎるかな」と躊躇したりすることもあります。なんとなく、ジャッジされることにビクついている自分が頭の片隅にいつもいるような感覚、と言いますか。
「その服はNG!」というジャッジを自分自身も内面化しているものの、その声に打ち勝ち、もっと自由に服を選ぶことができたら、ファッションをもっと楽しむことができるのに……。そんな気分のときに出会ったのが、はらだ有彩さん著『百女百様 街で見かけた女性たち』(内外出版社)です。
本書は、イラストレーターのはらださんが、様々な街で見かけた女性たちのファッションに着目した一冊なのですが、トビラに書かれているように、ファッションの本、というわけではありません。
トビラにはこう書かれています。「この本はファッションの本ではない。街を歩く彼女たちが未来永劫、その人生を終える日まで、益体のないジャッジに直面しませんようにと勝手に祈るための本である」と。
他人の装いをジャッジするか、肯定するか
本書でとりあげられているのは、屋台で芋を売る女性、空港にいたラフな格好の女性、ロリータファッションの女性、黒づくめの女性、バイト出勤前のミニスカの女性、男物の着物を着こなす女性、鮮やかなビキニを着た女性、下着が透けさせるファッションをしている女性、職場でファッションウィッグをつけている女性、全身ヒョウ柄の女性など、シチュエーションは様々です。
これらの女性は、街中にいる一般的な女性ではありますが、ともすると、「服装をジャッジされかねない女性」でもあります。下着を見せるなんてみっともない、スカートが短すぎる、ロリータ服なんてイタイ、職場でウィッグなんて、とか。そう考えると、ほとんどどんな服装でも「ジャッジ」できてしまうようにも思えます。
しかしはらださんが女性たちに向けるのは、ジャッジの目線ではなく、愛の目線です。愛、とか言ってしまって、ちょっと怪しい感じが出てしまいましたが、はらださんが女性たちに向けている視線がとても暖かくて、愛としか表現できなかったのです。むりやり別の言葉で表現するならば、「肯定」かもしれません。
たとえば、はらださんのイラストには、しばしば「髪の毛 ぱさぱさ」と注釈が書かれていますが、その様子を明らかに肯定的に描いています。髪の毛って、ぱさぱさしたらダメだと思っていた自分に気づかされました。はらださんのイラストを見ていると、ぱさぱささえも、なんだかおしゃれに見えてきて、なぜ今まで、髪の毛ぱさぱさはダメだと思っていたのか! とまで目から鱗が落ちた次第です。
本書を読んでいると、「それもいい」「あれもいい」「これもまたよし」と、はらださんが、女性たちの装いを愛でている様子が伝わってきます。それは、「これはダメ」「イタイからやめろ」「NGファッションだから気をつけてね」というメッセージとは真逆のものです。
他人に対する「NG!」というメッセージに比べて、「OK!それでいい!」というメッセージが極端に少ないように感じる現在、はらださんのメッセージは、私のような「ジャッジに密かにビビりがち」な人を勇気付けてくれます。
また、ファッションやウィッグの歴史などについても詳しく、「今、普通とされていること」「NGとされていること」が、昔は全く違ったことも知ることができました。やっぱり、ファッションに普遍的な正解なんてないのです。
好きなように装い、自由に生きていく
装いというものは、装っている人の人生そのもの。ゆえに、<たとえ当人が自分の装いを気に入っていようが、いまいが、他人がその装いを勝手にジャッジすることなんて、「ほんとうには」決してできないのだ>(P.229)とはらださんは言います。
他人のファッションに口出しすることは、人生に口出しすることなのだ……と考えれば、誰も気軽に他人のファッションをイタイとか、NGなんて言えませんよね。
『百女百様 街で見かけた女性たち』は、好きなように装い自由に生きて生きたい人、ジャッジの視線に疲れてしまい自分の選択に自信を失いかけている人に、おすすめしたい一冊です。
(原宿なつき)