「男性の産休」制度とは? 育児休業の「呼びかけ義務化」で取得率は増えるのか

文=川部紀子
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 ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子です。男性の育児休業活用に向けて新たな動きがありました。企業が対象の子を持つ男性に対し育児休業取得を個別に推奨することを法律で義務付ける方針が厚生労働省から提案されたのです。

注目すべきは、育児だけでなく生まれて間もない子を持つ男性の「産休」も新設するという点でしょう。 現時点で分かっている制度の概要と、現実として男性の育休や産休が定着するのかを考えていきたいと思います。

そもそも産休・育休とは?

 「産休」「育休」という言葉を知らない人はいないと思いますが、正確に内容を把握してない人は多いのではないでしょうか。

 「産休」は、産前産後休業のことで、労働基準法に基づく出産前と出産後の女性ための休業です。

 期間は原則出産以前6週間(双子などの場合は14週間)と出産後8週間ですが、出産以前は本人が勤務を希望した場合、会社は仕事をさせることが可能です。

 しかし、出産後は女性本人が希望しても会社は仕事をさせることはできません。ただし、6週間が経過し医師が認めた業務は可能です。

 次に「育休」ですが、育児休業のことで、育児介護休業法に基づく休業で男女ともに取得可能です。

 原則1歳未満の子を育てる従業員が申し出ることで取得できます。ただし、就職して間もない場合や雇用契約の終了が間近の場合など一部の制限があります。

 しばしば問題になる男性の育児休業取得率の低さですが、厚生労働省は2010年からイクメンプロジェクトを立ち上げ男性の育児休業取得率の向上を目指しています。その目的は「妻である女性の生き方が、子どもたちの可能性が、家族のあり方が大きく変わっていくはず。そして社会全体も、もっと豊かに成長していくはず」とされています。

 ちなみに、2010年度の1.7%から増加傾向にあるものの、2019年度で7.48%にとどまっています。 

男性の育休「義務化」とはどういうことなのか

 2020年12月14日、厚生労働省が労働政策審議会の分科会で提案した男性の育児休業に関する内容の中で「義務化」の文言に注目が集まりました。

 これは、男性の育児休業を義務化するものではありません。会社が該当の男性従業員に何らかの形で育児休業の取得を個別に呼びかけることを義務化するというものです。

 男性の育児休業を義務化するものではありませんから、育児休業を取得しやすくなるのかもしれない、といったところでしょうか。

 同時に注目したいのが男性の「産休」新設も提案されたことです。本来、産休は母体保護が目的のため男性には存在しない制度でしたが、提案されている新たな制度は子どもが生後8週までの間、「男性産休」が取得可能になるというもので、2週間前までに申請すればいいとのことです。

会社、夫、妻の現実

 来年の通常国会で詳細が決定するものとされており、政府は2025年には男性の育児休業取得率を30%としたいとのことです。

 現実問題として、今回提案されてる男性へ育休取得を呼びかけることの義務化は、果たして効果があるのでしょうか。書面等で通知されたという理由で取得が進むとは考えにくいです。もしも、取得が進めたいのであれば、企業側が男性の育休取得を推し進めるべく「原則休ませる規程」を作るまで踏み込む必要があるのではないでしょうか。

 男性本人が育児休業を取得したいのかも重要でしょう。男性の育休が定着していない現在は、子どもがいない同僚も多い中で、取得したいという強い気持ちがないと休むという気持ちにならない可能性も高いと思います。

 妻が家計の柱となるほど高収入などでない限り、自分が「家庭のために仕事を休む」ことにピンとこない男性も多いと感じます。専業主婦や扶養の範囲内の妻という考え方がまだまだ強いうちは難しいでしょう。「呼びかけることの義務化」の効果が、なおさら怪しくなってきます。

 そして、妻が夫に育休を取得してほしいと思っているのかも非常に重要です。妻の助けになるどころか、むしろ家事育児の手間を増やすような夫もまだ多いのが現実だと思います。邪魔になるくらいなら夫には出勤してもらいたい、と思う妻がいてもおかしくありません。

 個人的には、政府のイクメンプロジェクトをはじめ、あちこちで「イクメン」という言葉が使われていること自体に、男性が熱心に育児をすることの珍しさや特殊性が根強く残っている証拠のように感じます。

 しかし、今回のような制度の創設といった動きが積み上げられて、数年後には男性の育休取得がごく自然になる日がくるのかもしれません。そんな日に向けて、これまでの育児に関する慣習や文化、考え方や行動も変えていかなくてはいけないと思います。

 少し時間はかかるかもしれませんが、、幸せな子育てができる世の中になり、社会全体が豊かになることを願っています。

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