法廷で暴れ続けた男、愛した男を二度殺害した女…2020年、強い印象を残した裁判

文=高橋ユキ
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GettyImagesより

 2005年(平成17年)から、主に刑事裁判を見つめ続けてきた、傍聴ライターの高橋ユキさん。恋愛関係のもつれからの絞殺、夫婦関係悪化の末の撲殺、金目当ての拉致監禁ののちに橋から落として溺死……など、さまざまな凶悪事件の公判を多く取材してきた高橋さんによる、5つの事件の傍聴記をお届けします。

 11月に判決の出た【座間9人殺害事件】、札幌や東京で起きた【連続女児わいせつ事件】を扱った前編。後編では、大きく報じられていないけれど高橋さんにとって印象深い3つの事件を振り返ります。

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法廷で暴れ続けた男、愛した男を二度殺害した女…2020年、強い印象を残した裁判の画像2 ウェジー 2020.12.30

法廷で職員の右ほほに鉛筆を突き刺した被告人

 加賀美啓太(53)はもともと器物損壊罪で起訴されていた被告人だった。2018年10月2日、13時半から横浜地裁の404号法廷で開かれた自身の公判に出廷していた。

 ところが公判が始まって10分ほどしたところで、メモを取るために借りていた鉛筆で、法廷内にいた横浜拘置支所の20代職員の右ほほを突き刺した。通報で駆けつけた署員に、地裁地下一階で傷害容疑にて現行犯逮捕されたが「一切記憶にない」などと容疑を否認していた。

 加賀美被告の暴力的な振る舞いはこれ一回にとどまらなかった。同月18日に再び横浜地裁で開かれた自身の公判で、隣に座っていた県警本部留置管理課の男性巡査部長の顔を手で殴り、怪我を負わせたのだ。この件でまたもや傷害と公務執行妨害容疑で逮捕となる。

「8月の公判でも筆記用に用意された机をひっくり返して退廷となっていました。10月2日の公判では、先週は被告人質問のため証言台へ行くよう促された瞬間に襲い掛かっていました。公判を重ねるごとに法廷内外の警備が強化されていきました」

と、法廷に居合わせた傍聴人は語る。粗暴な行為で3度の退廷となった加賀美被告に対しては、一旦はもともとの器物損壊罪で判決が言い渡され、その後、法廷内での暴行事件の公判が2019年から横浜地裁で始まった。

 たびたび法廷で暴れ、2人の公務員に怪我をさせた男である。法廷は、かつてない厳重警備が敷かれた。通常であれば座れるはずの傍聴席最前列に白いカバーがかけられており、警備員が1人、そのカバーのついた席のひとつに緊張した面持ちで座った。筆者もさすがに身の危険を感じ、傍聴席後方に座って開廷を待っていると、法廷奥のドアが開いた。

 通常、勾留されている被告人は、刑務官2~3人に伴われて法廷に入るが、この男には、なんと8人の警備がついていた。しかも、両脇を固める法務省の職員はとびきり恰幅がよく、フルフェイスのヘルメットを被っていたのだ。

 しかし、当の加賀美被告は長椅子に肘をかけ、ふんぞり返ってニヤニヤと笑い「人定質問」にすら、まともに答えない

裁判長「名前は?」
被告「暴力団員ですね、あははは」
裁判長「名前を確認したいが、名前は?」
被告「ん~、よく思い出せませんね」

 質問には答えないまま「刑務所に9回入って、父親殺して、前も覚せい剤でパクられて、今回も……」と、やんちゃ自慢を繰り広げる。たしかに加賀美は平成9年に甲府刑務所を出所した翌日、千葉の実家で母親(と犬)をナイフで刺して傷害を負わせ、父親に灯油を掛けて焼き殺して宮城刑務所で18年服役している男ではある。

 なんとか罪状認否にこぎつけても「全部ね、やった記憶ないんですね~。自分は何もやってない。だから困ってるんですね~」と完全否認。のちの被告人質問でも「覚せい剤の影響で精神が……」と、覚せい剤による精神疾患のため心神喪失であるとの主張を繰り返した。

 かつてない警備体制で行われていた公判。加賀美被告は時折法廷で、両隣に座る職員に対し「鉛筆を貸して欲しい」と求めることがあった。通常、被告人は法廷でメモを取ることができる。しかし加賀美に限っては、それは認められなかった。また刺すかもしれないからだ。

 このように厳重な対策を講じていた横浜地裁だが、それでも2019年5月の公判でまた事件が起きた。8名の刑務官に取り囲まれた状況下で弁護人を殴ったのである。

「『37度の熱があるのに無理やり連れて来られた』と開廷直後から不機嫌で態度や言葉遣いも悪く、終始不穏な空気が漂っていました。次回期日を延期して欲しいと裁判官に直訴するも却下され、弁護人も予定通りの進行を求めたため怒りがピークに達したらしく、裁判官が閉廷を告げて起立する瞬間、弁護人の左胸辺りに左フックをぶち込んでいました」(傍聴人)

 加賀美被告は、被告人質問で“シンナーや覚せい剤を長年常用してきた”ことを語りながら、自身が「薬物精神障害」であると主張し、また一連の事件について「記憶がない」とも述べた。

「シンナーは中2の秋ぐらいから28歳まで。正直言いますけど大体……一週間に毎日、中2から家で……親の前でも覚せい剤やってる。
 中2の頃から過保護に育っちゃって、おばあさんから金もらって遊んでた。暴走族だったので『ばばあ、この野郎、早く飯作れ』と。『遅いぞ何やってんだ、このやろう』と引っ張ったり、タンスひっくり返したり、テーブルひっくり返したり……」

 こうして自分の“異常性”を開陳した加賀美被告だったが判決では求刑通りの懲役3年6月が言い渡される。ところがこれを不服として控訴し、新型コロナウイルス感染拡大防止のための非常事態宣言発出後である今年5月、控訴審が東京高裁で開かれた。今回もフルフェイスヘルメットの職員らに伴われ、法廷にやってきた加賀美は、今度は一転、“反省”をアピールしたのだった。

「とんでもない法律犯したと思う、反省してます、申し訳ないと、もちろん思ってます」

 そんな豹変ぶりを見せつけたが、控訴は棄却されている。

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